BY MASANOBU MATSUMOTO
サステナブルである(持続可能である)こと、特に自然環境へのインパクトを削減することは、いまやファッション産業の絶対的なミッションである。UNECE(国際連合欧州経済委員会)によれば、世界における排水の20%、温室効果ガスの10%はファッション産業によるもの。現代において“2番めに環境を汚染している業界”との悪名も聞こえる。いまファッションが求められているのは、産業自体の大きな変革であり、グローバルなパワーをもつコレクションブランドやビッグメゾンのアクションが、その要になる。
なかでも特筆すべきは、グッチやサンローラン、バレンシアガなどを擁するケリング グループの取り組みだろう。去る10月、ケリングのサステリナビリティ・オペレーションズ・ディレクター、マイケル・ボイトラーが来日し、同グループのさまざまなアプローチを紹介するワークショップを行った。
ケリングのサステナビリティ戦略の軸は、「E P&L(Environmental Profit & Loss:環境損得計算書)」と呼ばれるメソッドだ。これは「大気汚染」「土地利用」「水の利用」など事業活動による環境負荷を“金銭価値”で示すもの。それにより、漠然としていた環境汚染やそれによる経済的ロスを、コストとして“見える化”することができる。そしてケリングの取り組みが画期的なのは、このコスト化を、店舗やオフィス、倉庫など「ヘッドオフィス」の範囲だけでなく、製品の組み立てや加工、原材料の採掘などの「サプライヤー」の範囲まで、サプライチェーン全体に対して行ったことだ。それにより、事業のどのスキームで、どのような環境負荷がかかっているかを明らかにした。
マイケルは、こう話す。「このE P&Lを導入した当初、たとえば、環境負荷の大部分がオフィスや店舗ではなく、素材の採取や加工などの現場で発生していることがわかりました。こうしたレポートを踏まえて、また各ブランドの担当者や外部の専門家と、何にフォーカスして施策を行うか? どういうアプローチを組み合わせられるのか? などのディスカッションやシェアリングを繰り返して、効果的、効率的な施策を実行していくのです」。素材に関しては、いまでは、オーガニック・コットンや、エシカルに採取・調達されたゴールドやダイヤモンドを積極的に採用。またいくつかのブランドのキー素材であるレザーは、人体や環境に有害なクロムなど重金属を使わない、独自のなめし方法を開発したという。「細かい部分では、なめしやカットなどレザーの加工過程も見直しました。大切なのは、素材の使用を制限することではなく、作り手が責任のある選択を取れるようにすることです」
このE P&Lのメソッドやツールはオープンソースとして公開。また、若いデザイナー向けにアプリ版「My E P&L」を無料でリリースしている。このアプリを使えば、素材、原産国、製造国の選択によっても、環境への負荷が大きく変わることが目に見えてわかる。