大量生産と高いクオリティを両立させるユニクロ。その未来には、どんな服をまとう私たちがいるのか?「LifeWear」を武器に、ファッションの民主化を唱える企業のアート&サイエンスをひもとく

BY MICHINO OGURA

 実際に訪れた島精機製作所は創業者である島正博会長の故郷・和歌山県にある。大阪にも近く、関西空港から車で35分という立地。今では世界70カ国と取引があるという。緑化運動が推進された敷地内にユニクロの製品を開発するための工場を建設。前出の合弁会社社長の中村充隆氏がこのスペシャルな施設を案内してくれた。

画像: 和歌山市内にある島精機製作所。 合弁会社契約の半年後にはすでに専門の工場を敷地内に建設していた。編み機が設置される部屋はゴミなどが付着しないよう整頓。近未来的な空間が広がる ほかの写真をみる

和歌山市内にある島精機製作所。
合弁会社契約の半年後にはすでに専門の工場を敷地内に建設していた。編み機が設置される部屋はゴミなどが付着しないよう整頓。近未来的な空間が広がる
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「敷地内ではホールガーメントの横編み機を自社でパーツから作り、組み立て、専用のデザインシステムも開発します。さらに、イノベーションファクトリー専用の工場では編み機を使用し、ユニクロの3Dニットのワンピースなどを製造しています。工程は、海外から輸入した糸を均質に巻き直し整えてから、編み機に設置。あがってきた3Dニットのワンピースの最終作業を人の手で行うという流れです。編み機が糸の結びまで行うため、人が端糸の処理を行い、サイズを安定させるために洗いにかけ、乾燥させたあとにハンドピッキングで細かいゴミを取り除きます。それからアイロンをかけて、タグをミシンでつけ、検針もしっかりと行い、たたんで梱包。これまでのニット工場は縫製のための大量のミシンを置くスペースや技術者の数が必要でしたが、編み機のおかげでその点は解消されます。ここは労働集約ではなく、知識集約でできているんです。人手や土地が限られた日本にはホールガーメントの考え方が合っています。ここを立ち上げた当初は手探りでしたが、ユニクロのニットの売れ行きが好調なため、今では機械を24時間動かして、スピード感をもって対応しています」

画像: 編み上がった3Dニットのワンピースに糸クズなどが混入していないか、人が検品する ほかの写真をみる

編み上がった3Dニットのワンピースに糸クズなどが混入していないか、人が検品する
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画像: アイロン作業を待つ3Dニットのワンピース。縫い代がなく立体的に身体にフィットする人気アイテム PHOTOGRAPHS BY SADAHO NAITO ほかの写真をみる

アイロン作業を待つ3Dニットのワンピース。縫い代がなく立体的に身体にフィットする人気アイテム
PHOTOGRAPHS BY SADAHO NAITO
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 一方、“アート”の部分はどのように進化しているのか? ユニクロの取締役としてマーチャンダイジングを統括する國井圭浩氏は、実直なものづくりの姿勢が鍵だと考える。
「“3Dニット”はホールガーメントを採用した未来的なアイテムで、もしかしたら将来的にひとりひとりにフィットするニットができるかもしれません。しかし、そのほかのニット製品に関しては“アート”の側面でもあるクラフツマンシップが欠かせない。海外の工場では数えきれない技術者が整然と規律正しく仕事を行なっています。その風景はパリの展覧会でも映像で流しましたが、ユニクロのニットはこんなに手のかかっているプロダクトなんだと驚く声もありました。ストリートの流行やランウェイの最新コレクションにも目を通しますが、最終的にはお客さまの80%ぐらいの人が毎日着て楽しくなる服に落とし込まなくてはいけない。行きすぎたり、ニッチすぎるものではなく、半歩先を行く時代の空気を読むことが大切なのです。そこで重視しているのは、個人の趣味嗜好ではなく、ユニクロとしてどうか、お客さまだったらどう思うか。主語が自分であってはいけないと考えています。シルエットや素材、色を重視する“アート”に、過程は“サイエンス”を柔軟に取り込みつつも最終的には手作業へと戻る。ユニクロはそれができるからこそ、どんな服にでも合うベーシックを作ることができるんだと思いますね」。

私たちのワードローブに常に寄り添ったアイテムを作り続けるにはアート&サイエンスの絶妙なバランス感覚が必要だ。

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