1970年代以降の作品に焦点を当てたカルティエの展覧会『カルティエ、時の結晶』が開催される。杉本博司と榊田倫之率いる新素材研究所が手がけた会場構成は、さながら地底にさまよいこんで、何億年もかけて結晶化された宝石たちと邂逅(かいこう)するようなインスタレーションとなっている

BY JUN ISHIDA

 広さ2,000㎡、天井高8mという巨大なホワイトキューブは4つの部屋に分けられ、中央に位置するのがカルティエの“時”を象徴する作品であるミステリークロックやプリズムクロックが集められた「時の間」だ。「この部屋には12本の柱がありますが、柱は時計の数字でもあります。『時の間』を中心に他の部屋は配置され、各部屋を移動する際にも常にこの空間を意識する動線をつくりました」と榊田は説明する。

画像: 展示で用いられるトルソーと台のサンプル。トルソーには屋久杉、神代杉、神代欅などの銘木が使用される © N.M.R.L. / HIROSHI SUGIMOTO + TOMOYUKI SAKAKIDA

展示で用いられるトルソーと台のサンプル。トルソーには屋久杉、神代杉、神代欅などの銘木が使用される
© N.M.R.L. / HIROSHI SUGIMOTO + TOMOYUKI SAKAKIDA

 3つのカテゴリーの部屋は、それぞれ時を感じさせる素材である木、石、土を用いてつくられ、第1章の部屋では、御簾(みす)を思わせる紗で囲まれた空間に、白木で作った棺のような展示ケースが立ち並ぶ。「白木の匂いがほのかに香り、神聖なものが中に御座(おわ)す連想へと導きます」と榊田は語るが、実際にジュエリーを飾るトルソーは仏の姿を彫る仏師が製作している。「従来の商業的なジュエリーの展示に用いられるトルソーと治具からいかに脱却するかを考え、約70体あまりのトルソーを仏師の方に手彫りで作っていただきました」。

画像: 《ヘアオーナメント》カルティエ パリ、1902年 カルティエ コレクション 第2章「フォルムとデザイン」より。水の流れや煙の渦など自然から生まれた流線形の「エッセンシャルライン」 NILS HERRMANN © CARTIER

《ヘアオーナメント》カルティエ パリ、1902年 カルティエ コレクション
第2章「フォルムとデザイン」より。水の流れや煙の渦など自然から生まれた流線形の「エッセンシャルライン」
NILS HERRMANN © CARTIER

画像: 《ブレスレット》カルティエ、2018年 カルティエ コレクション 同じく第2章「フォルムとデザイン」より。「エッセンシャルライン」は時を経てよりモダンに進化 VINCENT WULVERYCK © CARTIER

《ブレスレット》カルティエ、2018年 カルティエ コレクション
同じく第2章「フォルムとデザイン」より。「エッセンシャルライン」は時を経てよりモダンに進化
VINCENT WULVERYCK © CARTIER

画像: 第2章「フォルムとデザイン」の空間。大谷石で構成される © N.M.R.L. / HIROSHI SUGIMOTO + TOMOYUKI SAKAKIDA

第2章「フォルムとデザイン」の空間。大谷石で構成される
© N.M.R.L. / HIROSHI SUGIMOTO + TOMOYUKI SAKAKIDA

地底の暗闇を思わせる第2章の部屋は大谷石で空間を形づくり、錆びた鉄のケースの中で、ジュエリーが硬質な輝きを放つ。そして最後の部屋には、幅16mに及ぶ巨大な「ワンワールドケース」と名付けた土壁のケースが鎮座する。「第3章にはさまざまな文化や文明をインスピレーションソースとするジュエリーが集まりますので、すべてを包有する地球に見立てたケースを作っています」

画像: 《「タイガー」ネックレス》カルティエ、1986年 カルティエ コレクション さまざまなカルチャーへの好奇心から着想を得た作品が集まる第3章「ユニヴァーサルな好奇心」では各時代の動植物をモチーフにした作品が一堂に会する NILS HERRMANN, CARTIER COLLECTION © CARTIER

《「タイガー」ネックレス》カルティエ、1986年 カルティエ コレクション
さまざまなカルチャーへの好奇心から着想を得た作品が集まる第3章「ユニヴァーサルな好奇心」では各時代の動植物をモチーフにした作品が一堂に会する
NILS HERRMANN, CARTIER COLLECTION © CARTIER

 本橋は、展覧会最大の見どころは、カルティエの作品と新素材研究所による空間の対話と述べる。「カルティエのジュエリーは、職人の卓越した技術と最上のものを追求しつづけるメゾンの美意識が生み出した芸術品です。そして新素材研究所による会場構成は、空間そのものを作品化しようとする試みです。両者が繰り広げる対話をぜひご覧いただきたい」。
カルティエ、そして新素材研究所の“時間”が出合うとき、どのようなハーモニーを奏でるのか楽しみだ。

画像: 「新素材研究所」は、世界的な現代美術作家の杉本博司(右)と建築家の榊田倫之が2008年に設立した建築設計事務所。古代や中世、近世に用いられた素材や技法を再解釈し、現代建築をデザインする。代表作に「MOA美術館」、「小田原文化財団 江之浦測候所」など COURTESY OF NEW MATERIAL RESEARCH LABORATORY

「新素材研究所」は、世界的な現代美術作家の杉本博司(右)と建築家の榊田倫之が2008年に設立した建築設計事務所。古代や中世、近世に用いられた素材や技法を再解釈し、現代建築をデザインする。代表作に「MOA美術館」、「小田原文化財団 江之浦測候所」など
COURTESY OF NEW MATERIAL RESEARCH LABORATORY

『カルティエ、時の結晶』
会期:2019年10月2日(水)〜12月16日(月)
場所:国立新美術館 企画展示室2E
住所:東京都港区六本木7-22−2
休館日:火曜日(10月22日(火)開館、23日(水)休館)
開館時間:10:00〜18:00(金、土曜は20:00まで)
※入場は閉館30分前まで
入場料:前売券¥1,400(一般)、¥1,000(大学生)、¥600(高校生)
当日 ¥1,600円(一般)、¥1,200(大学生)、¥800(高校生)、中学生以下無料
電話:03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

<EVENT>
『LE MOMENTS CARTIER - ART DE FAIRE カルティエが魅せる職人技』
展覧会期間中、東京・六本木にて、カルティエのクラフツマンシップを体験できるイベントも開催される。フランスの人間国宝「メートル・ダール(Maître d' Art)」に認定されたフィリップ・二コラ氏も来日し、普段は見ることのできない宝石彫刻師の熟練技を披露してくれる。

場所:21-21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
期間:2019年10月2日(水)~14日(月・祝)※ 10月8日(火)休館
開場時間:10:00~17:00
入場料:無料

問い合わせ先
カルティエ カスタマー サービスセンター
フリーダイヤル: 0120-301-757

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