BY JUN ISHIDA
国立新美術館で行われる『カルティエ、時の結晶』展は、ハイジュエリーの展覧会としては異例のものになりそうだ。世界で初めて、1970年代以降に作られたカルティエの現代作品に焦点を当てた展示は、ジュエリーのデザイン性にフォーカスする。キュレーションを担当する国立新美術館主任学芸員の本橋弥生は「世界的にもこれまでに見たことのないカルティエ展をつくりたかった」とテーマ設定の新しさを語る。
「カルティエの展覧会は、世界では35回目、国内では4回目となります。過去に行われた展覧会は、カルティエの名作や、ジュエリーの背後にある物語をテーマにしたものでしたが、今回は物語性から解放されたときに見えてくる、ジュエリーのフォルムや制作技術など、そのデザイン的な側面に焦点を当てたいと考えました」
「時の結晶」というタイトルは、ジュエリーを物語から切り離し、純粋に石や鉄、物質として見たときに浮かび上がってきた言葉だ。そのコンセプトは新素材研究所によって示された。本橋は「宝石とは地球が形成されたときの素材が結晶化し、奇跡的に生み出されたもの」とし、展覧会では宝石が内包する“時間”と3代目のルイ・カルティエがジュエリー・デザインの礎を築き、その発想が時代の流れとともに変化していったカルティエにおける“時間”というふたつの時間が流れていると言う。
“時間”はまた、新素材研究所による会場構成のキーワードともなっている。「時間や素材の探求は新素材研究所における建築デザインのテーマでもあります」と榊田は述べる。「カルティエから未来を示す展示にしたいとの話を受け、時間をさかのぼることがすなわち未来を示すことだと、“時間”を軸とした会場構成を提案しました」
『カルティエ、時の結晶』展は、「時の間」という序章から始まり、デザインの観点から設定された3つのカテゴリーの部屋が続く。第1章「色と素材のトランスフォーメーション」では、カルティエ作品におけるカラーパレットの変化と職人が持つ素材の加工技術および装飾技術にフォーカスし、第2章「フォルムとデザイン」は、抽象的な造形力を生み出す“ライン”や建築的なデザイン、偶然から生まれたデザインなどカルティエ作品の造形的特徴に着目、そして第3章「ユニヴァーサルな好奇心」には、さまざまな国の文化、そして自然界からインスピレーションを受け誕生した作品が一堂に会する。また各章では、1970年代以前と以後で、ジュエリーがどのように変化したかの対比も展示され、時代とともに進化しつづけるカルティエ作品の変遷も楽しむことができる。