BY MASANOBU MATSUMOTO
インタビューの数日前、寺西は牛首紬の織元、石川県の白山工房を訪れていた。9月23日から伊勢丹新宿店で開かれる、牛首紬の反物を使ったオーダー会の打ち合わせと撮影のためだ。「今回、牛首紬は服にとても適した素材だということがわかりました」と寺西は言う。牛首紬は、“釘抜き紬”という別名もあり、とても丈夫な素材だ。「それはなぜかと尋ねたら、手で糸を紡いでいるからだそう。機械で行う場合、テンションがはった状態で撚り(複数の繊維を合わせて1本の糸にする工程)をかけるのでピンと張った糸ができます。しかし、手紡ぎだと微妙な違いですが弾力のあるしなやかな糸に仕上がる。牛首紬で別の工程で補助的に機械も使う。手でしかできないこと機械のほうが優れていることを組み合わせ、物性的にも優れた生地が生まれるのだそうです」
日常服を展開するアルルナータでは、その生地の醍醐味が存分に味わえる。直線的でクリーンなシルエットは、色彩豊かでハリや光沢のある牛首紬の魅力を引き立て、また着心地はじつに軽やか。なにより、こうした“着物生地で仕立てたの洋服”は、織元の職人からも好評を受けているという。「着物はある意味、反物がすべて。“ここは衿に”“ここは前立てに”とハサミを入れる箇所もほとんど決まっていて、あまり形のバリエーションがありません。和装も洋装も同じ“糸へん”の存在。どちらも意義があるもの。だからその壁をなるべく取り払って、現代のライフスタイルにあったものを提案していきたい」
東京・伊勢丹新宿店でのオーダー会では、白山工房のもつすべての牛首紬の反物から好みのものを選び、サンプルを参考にしながらシャツ、ワンピース、コートなどを作ることができる。また衿やカフス部分に、着物の帯などに使われる螺鈿織のデコレーションを施すことも可能だ。反物単体でも購入でき、着物のオーダーも受け付ける。
反物を買って洋服を仕立てる。「昔ながらの粋な体験ですね」と問うと、じつは持続可能なビジネスのかたちを追求したうえで選んだスタイルでもあることを明かした。「既製品を販売するスタイルは、かたちになった洋服をある程度の数量ぶん作るのが前提です。それはブランドにも織元の負担にもなりますし、お客様が選べるだけの種類も必要になってきます。反物からオーダーするというかたちをとれば、その問題は解消できると思うのです」。インタビュー中、寺西はブランドを立ち上げた前提に、伝統的な織物の生産者を応援したいという気持ちがあることを強調した。サスティナブルな方法で、生産者、消費者と目線を交わしながらものづくりを展開していく。「なによりもまず、日本が培って来た素晴らしい生地に興味を持ってもらいたい。多くの人に会場に来ていただき、牛首紬の魅力にふれてほしいですね」
ARLNATA × 牛首紬SPECIAL COLLECTION in ISETAN 2020
会期:9月23日(水)〜24日(木)、26日(土)〜29日(火)
※25日(金)はイベント開催のため休業
会場:伊勢丹新宿店 本館7階呉服
住所:東京都新宿区新宿3-14-1
営業時間:10:00~20:00
電話:03(3352)1111<代表>
ウィメンズ4型(コート、ワンピースコート、ロングシャツコート、クラシックシャツ)、メンズ3型(コート、ロングシャツコート、クラシックシャツ)のパターンオーダーが可能。反物からの洋服仕立てオーダーは、27日(日)まで受付
問い合わせ先
アルルナータ
TEL. 072(886)9216
公式サイト