BY JUNKO ASAKA, PHOTOGRAPHS BY TAKAO AKIMOTO
「また、その保存した食材のどれをとってもいろいろな調理法があるんです。春先に出るふきのとうの茎の部分を“ばっけのたつ”といって、塩蔵しておいたものを塩抜きして使います。これも豆腐とゴマで白和えにしたり、だし汁で炒め煮にしたり、ほかの野菜と含め煮にしたり……。冬のあいだに家族が飽きないように、女性たちが工夫を凝らしてきたのでしょう。そういう保存方法や調理法は一代でできたものではなくて、代々家庭の中で、また村の集いの中で伝えられてきたものです。今の時代にそれが失われてしまうのはもったいない。そんな思いで、昔から伝わる料理の聞き書きを始めました」
料理好きな仲間が集まり4、5人で、冬の農閑期に高齢者の家を一軒一軒訪ね歩いた。地元に伝わる料理や保存食の作り方、伝統行事の際に食べる料理などを聞き取っては実際に調理し、試食。2006年には約120点ものレシピを掲載した書籍『津軽の伝承料理』も刊行した。メンバーも徐々に増え、互いに学んだ料理を教えあったり、田植え料理や正月料理などテーマを設けて食事会を開催したりするようになった。
地元の食材を中心に、化学調味料を使わず、砂糖や油も極力使わずだし汁で炒める。うす味で食材のうまみを生かしたその料理と、あたたかでホスピタリティあふれる会の女性たちのもてなしは、地域を超えて人気を呼んだ。今では年1回、20~30人規模の食事会を催すほか、事前予約で工藤さんの自宅で伝承料理をいただける少人数の食事会や、出張先でのふるまい、カルチャースクールでの講義なども開催。その活動範囲はますます広がっている。
去る2月に都内で開かれた青森県主催の「あおもり食セミナー」でも、津軽あかつきの会が料理を担当した。中でもひときわ若いメンバーの吉田涼香さんは25歳。地域おこし協力隊で弘前市に雇用され、地域活動に協力する中で会のことを知って参加したという。「たとえばこの『さめなます』。これはサメのハラスと頭の身の部分をゆがいてから酢締めにして、大根おろしとあえて酢味噌で味付けします。ひとつひとつの料理に、本当にたくさんの知恵と手間が詰まっているんです」と目を輝かせる。
また、津軽の代表的な伝承料理「けの汁」は、大根、人参、ごぼうといった根菜に山菜、大豆を細かく刻み、味噌や醤油でことこと煮込んだ具だくさんの汁物。「小正月に女衆が休めるよう、囲炉裏に大鍋でつくりおきしていたものです。冬に青野菜がない津軽では、こうして根菜で冬のあいだ栄養をとっていました」と、ひとつひとつの料理に工藤会長が説明を添えてくれる。
ほんのりしょっぱくて豆の濃い味がする「豆漬け」や、貯蔵して甘みの増したにんじんをタラコとだし汁で炒りつけた「にんじん子和え」、そして見たこともないほど種類豊富な漬け物の数々……。どれも“お母さんの味”と言いたくなる、しみじみとやさしい味だ。野菜中心のためか、たくさん食べても胃にもたれず、ひとつひとつの食材の味がじんわりと心と体にしみてくる。この料理に魅せられ、春の山菜料理やお盆料理など、季節ごとに趣向を凝らした食事会に遠方から定期的に足を運ぶ人がいるというのもうなずける。
年間20回以上も自宅で食事会を催しているという工藤会長は、「採算考えたらできないから。自分のうちならタダだし」と、くったくなく笑う。「勤めをもっていた若い頃は私も食事にそれほど関心がありませんでした。でも40歳の頃に体を壊して仕事をやめてから、食べるものが直接自分の体をつくるんだと気がつきました。いずしや漬け物など、津軽の料理は発酵食品が多くて体にもいい。知れば知るほど、昔の人は偉かったなあと思いますよ」
厨房で料理にいそしむ「津軽あかつきの会」の女性たちは、みな笑顔で声をかけあい、きびきびと楽しそうに働いていた。食べること、そして料理をつくることの本当の意味ってなんだろう――。津軽のお母さんたちの手料理は、そんなことをふと立ち止まって考えたくなる、奥深い味がした。
津軽あかつきの会
TEL. 0172-49-7002(工藤会長宅・青森県弘前市石川地区)
※食事会は4名から。4日前までに要予約でひとり¥1,500~(応相談)
※伝承料理教室、出張でのふるまいも受付