BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY TETSUYA MIURA
萱島酒造の酒は「旨口」と評される。「旨味がなければ日本酒ではない」と言い切る萱島は、東京の酒販店から、いま流行のサラッと飲める辛口の酒を提案されたことがあるという。
「地元の人が土地の料理を食べながら、ちびりちびり飲んでくれる酒がいいんです。地酒ブームがきて、どこもかしこもきれいで香りのある辛口を造り出したことで、味が均一化されてしまいました。流行を追いかけて個性を出そうとすれば、かえって没個性になってしまう。余計なことは、せんでいい。迎合してしまったらおもしろくないでしょう。自分たちの酒造りをずっと守り続けることが大切です」
とはいうものの、萱島は長い年月をかけて、蔵の味を少しずつ工夫してきている。ライフスタイルも変わりつつあり、時代の求める味にしていかなければ、飲み手は離れていく。40年ほど前、ここの普通酒はかなり甘くて濃かったそうだ。それを20年ほどかけて、旨味を残しながら軽くし、普通酒の品質をアップしてきた。
「お客さんは誰も気づいてないはずです。地元で毎日飲んでくれている方々に、いまの流行りはこの味なんですと言って、急に味を変えても受け入れられるはずがない。普通の酒にこそこだわるべきです。そっと微調整を繰り返して、いまの味に仕上げたのです」
愛され続けるには進化が必要だ。高価な吟醸酒ではなく、普通酒にこだわり、味のボトムアップをはかったからこそ、いまでも地元では「西の関しか飲まん」という人たちが大勢いる。
「いろいろ賞もいただきましたが、いままででいちばん嬉しかったのは、昨年いただいたコンクール『kura master』のプラチナ賞です。パリで行われ、フランス人ソムリエが食とのマリアージュという観点からお酒を選ぶ。私は常々、お酒は料理のそばにあるものだと思っています。『知らないうちに、あれ、こんなに飲んじゃった』と言われる酒でありたい。そんな想いが海外の方にも伝わったのかなと」
国東は、伊予灘から玄界灘にかけての魚が揚がり、関アジ、関サバ、城下カレイ、車海老、タコなど、海の幸の宝庫ともいえる。当地でいただいた料理に、萱島酒造の酒がしっくりなじんだのも当然だ。萱島の言う「教科書どおりに」国東の地で造り続けられた酒には、国東の気候風土が溶けこんでいる。
「『甘・辛・酸・苦・渋』の五味が調和した酒がいいと言われてきましたが、最近は『淡味』が加わって六味になっていますね。僕は、さらに『旨味』を加えて七味にしたらいいと思うんですよ」
新しさにこだわらず、時代に合わせて進化する酒蔵。国東の地で生まれた「七味」を湛えた酒は、これからも地元の人たちに愛され続けるに違いない。
萱島酒造
住所:大分県国東市国東町綱井392-1
電話: 0978(72)1181
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