BY MIKA KITAMURA
ドミニカ共和国の危機に瀕したカカオの森を救う活動「カカオ・フォレスト」に関して昨年レポートしたが、この活動がさらに広がり、世界規模の動きになりつつあるのをご存じだろうか。
日本でも人気のパティシエであり、ショコラティエでもあるフレデリック・カッセル。世界規模のお菓子協会「ルレ・デセール」の名誉会長も務めている。この協会は世界15カ国、87名のパティシエが加盟する組織に拡大し、ドミニカでの「カカオ・フォレスト」活動に尽力している。この活動の一環として昨年、カッセルら12名のパティシエ&ショコラティエがドミニカを訪れた。
「チョコレート業界で、『質のよいカカオが手に入らなくなった』と言われ始めたのは4年ほど前でしょうか。理由が明確になるにつれ、これはどうにかしなくてはならないと、この活動が始まりました」とカッセルは語る。ドミニカでは、伝統的なカカオの栽培方法を踏襲する農園が後継者不足や貧困のために農園を手放し、大手のカカオ農園に吸収されつつある。そのため、古くからの木を抜き、ハイブリット種のカカオへの植え替えが行われている。これがすなわち上質なカカオが急速に消えていく要因であるのと同時に、森林破壊の原因ともなっているのである。
「ドミニカのカカオは私にとってもルレ・デセールの会員にとっても、なくてはならないもの。ここのカカオの魅力はまず、ビオロジックであること。風味がやさしいため、ほかの食材との相性がよく、味わいの調和がとれたチョコレートに仕上がります。昨秋、ドミニカの小規模農園を訪れ、この味を守っていかなければならないという思いを新たにしました」
また、古くからの農園の暮らしは、それはひどいものだとカッセルは話す。電気も水道も通らず、カカオがどのようなルートで売られ、どんなふうにお菓子や飲み物になっているのかさえ生産者は知らないという。この貧困の根幹にあるのが、アンフェアな取引だ。「カカオ・フォレスト活動では、まずドミニカに『コーポラティブ(農業組合)』を作りました。これによってすべての取引が組合を通して行われるため、値段交渉などができるようになり、フェアトレードが実現しつつあります。組合の収入でトラクターを購入し、共同使用することも可能になりました」
今回のドミニカ行きには、12人のパティシエのほか、このプロジェクトに関わる農業関係の組織からカカオ栽培の専門家たちも同行した。彼らは農園でカカオの剪定や接ぎ木の方法を教え、カカオの隣には将来の収入が見込めるフルーツを植えることを現地の農民たちに提案したという。