世界的パティシエでありショコラティエのフレデリック・カッセルが率先して関わる「カカオ・フォレスト」の活動は5年目を迎える。改めて現地を訪れたカッセル氏に、ドミニカのカカオの森の現状を聞いた

BY MIKA KITAMURA

 ドミニカ共和国の危機に瀕したカカオの森を救う活動「カカオ・フォレスト」に関して昨年レポートしたが、この活動がさらに広がり、世界規模の動きになりつつあるのをご存じだろうか。

 日本でも人気のパティシエであり、ショコラティエでもあるフレデリック・カッセル。世界規模のお菓子協会「ルレ・デセール」の名誉会長も務めている。この協会は世界15カ国、87名のパティシエが加盟する組織に拡大し、ドミニカでの「カカオ・フォレスト」活動に尽力している。この活動の一環として昨年、カッセルら12名のパティシエ&ショコラティエがドミニカを訪れた。

画像: フレデリック・カッセル 1967年、フランス北部アブヴィル生まれ。ポール・マニュにて雨細工を学んでいた頃にピエール・エルメ氏と出会い、1988年から「フォション」で修業。エルメ氏から“最高の素材と厳格な仕事”を学ぶ。1994年、パリ郊外のフォンテーヌブローにて自身の店をオープン。2002年にはショコラティエとサロン・ド・テも展開する

フレデリック・カッセル
1967年、フランス北部アブヴィル生まれ。ポール・マニュにて雨細工を学んでいた頃にピエール・エルメ氏と出会い、1988年から「フォション」で修業。エルメ氏から“最高の素材と厳格な仕事”を学ぶ。1994年、パリ郊外のフォンテーヌブローにて自身の店をオープン。2002年にはショコラティエとサロン・ド・テも展開する

「チョコレート業界で、『質のよいカカオが手に入らなくなった』と言われ始めたのは4年ほど前でしょうか。理由が明確になるにつれ、これはどうにかしなくてはならないと、この活動が始まりました」とカッセルは語る。ドミニカでは、伝統的なカカオの栽培方法を踏襲する農園が後継者不足や貧困のために農園を手放し、大手のカカオ農園に吸収されつつある。そのため、古くからの木を抜き、ハイブリット種のカカオへの植え替えが行われている。これがすなわち上質なカカオが急速に消えていく要因であるのと同時に、森林破壊の原因ともなっているのである。

「ドミニカのカカオは私にとってもルレ・デセールの会員にとっても、なくてはならないもの。ここのカカオの魅力はまず、ビオロジックであること。風味がやさしいため、ほかの食材との相性がよく、味わいの調和がとれたチョコレートに仕上がります。昨秋、ドミニカの小規模農園を訪れ、この味を守っていかなければならないという思いを新たにしました」

画像: ヤシの木などと一緒に植えることで木陰ができ、カカオが強い日差しから守られ、害虫予防にもなる。大規模農園ではカカオ単一栽培がメインで、農薬や化学肥料を使っているため土地が疲弊する。持続可能なカカオ栽培のためにも、森を守ることが大切だ

ヤシの木などと一緒に植えることで木陰ができ、カカオが強い日差しから守られ、害虫予防にもなる。大規模農園ではカカオ単一栽培がメインで、農薬や化学肥料を使っているため土地が疲弊する。持続可能なカカオ栽培のためにも、森を守ることが大切だ

画像: カカオはまず6日間ほど発酵させる。この作業が味わいを決める。その後、乾燥させて出荷。組合にすることで生産量も安定した

カカオはまず6日間ほど発酵させる。この作業が味わいを決める。その後、乾燥させて出荷。組合にすることで生産量も安定した

 また、古くからの農園の暮らしは、それはひどいものだとカッセルは話す。電気も水道も通らず、カカオがどのようなルートで売られ、どんなふうにお菓子や飲み物になっているのかさえ生産者は知らないという。この貧困の根幹にあるのが、アンフェアな取引だ。「カカオ・フォレスト活動では、まずドミニカに『コーポラティブ(農業組合)』を作りました。これによってすべての取引が組合を通して行われるため、値段交渉などができるようになり、フェアトレードが実現しつつあります。組合の収入でトラクターを購入し、共同使用することも可能になりました」

 今回のドミニカ行きには、12人のパティシエのほか、このプロジェクトに関わる農業関係の組織からカカオ栽培の専門家たちも同行した。彼らは農園でカカオの剪定や接ぎ木の方法を教え、カカオの隣には将来の収入が見込めるフルーツを植えることを現地の農民たちに提案したという。

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