BY MIKA KITAMURA
ドミニカの農園でも問題になっているのが、高齢化だ。カカオの造り手が減り、貧困から逃れるために若者は都会へ出てしまう。小さな農園が大規模農園に吸収されていくのを避けるためにも、後継者を育てることは急務だという。収入を増やすのが最も大切だが、生産者のモチベーションを上げることも重要だ。カッセルらパティシエたちは、今回、地元のホテルに生産者たちを招待し、彼らの目の前でチョコレートを使ったお菓子を作ってふるまった。同時に、現地でドミニカのカカオを使った大量生産のチョコレートを購入し、食べ比べもしてもらった。
「私はモワルー・ショコラ(やわらかなチョコレートケーキ)を彼らと一緒に作りましたし、ドミニカのカカオを使ったボンボンショコラはフランスから運びました。一緒に行ったパティシエたちも、それぞれ自作のショコラを持って来ていましたよ。驚いたのは、生産者全員がいままで一度もチョコレートを食べたことがなかったことです。初めて食べたお菓子にとても感動してくれました。しかもほかのチョコレートと食べ比べて、私たちが作ったチョコレートのほうが数倍おいしく、それに使われているのが自分たちのカカオだと知ったときの誇りに満ちた表情は忘れられません。確実に、これから彼らはプライドを持ってカカオを育てていってくれるでしょう」。カッセルは嬉しそうにそう語った。
カッセルとともにドミニカを訪れた有名パティシエのジャン=ポール・エヴァンは言う。「この活動が始まってまだ5年です。手応えはあり、よい方向に向かっているのは確かですが、まだまだ財政面や技術面で私たちがサポートしていかなければならないと考えています。ドミニカで育てられているビオロジック栽培で安全なカカオは、ほのかに抹茶のような香辛料の香りがする。20年後も、こんなにおいしいチョコレートをみんなが食べたいでしょう?」
カッセルの今年のバレンタインデーシーズンへ向けての新作は、ドミニカのカカオを使った「DÉCOUVERTE(デクヴェルト)」と名づけられた6粒入りのコフレだ。英語で「Discovery」の意味を持つ商品名には、カカオ・フォレストを通じて発見したカッセルのカカオへのさまざまな想いが込められている。そして、この活動は今、「6年で1カ国」のペースで世界へ広がろうとしている。次はペルーの予定だ。カカオの未来へとつながる道標を見守りたい。
問い合わせ先
フレデリック・カッセル
公式サイト