BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
イタリアを代表する“泡”といえば、やはり「フランチャコルタ」。ロンバルディア州東部のフランチャコルタでつくられる上質なスパークリングワインのことで、瓶内2時発酵でつくられるスパークリングとしてはイタリアで初めて“DOCG(統制保証原産地呼称)”にも認定されている。使用されるブドウはシャルドネ、ピノ・ネロ、ピノ・ビアンコが主体で、瓶内二次発酵の熟成期間は最低でも18カ月と、その製造方法には極めて厳しい義務づけがなされている。フランチャコルタはアルプス山脈の南側、イゼオ湖畔に広がる風光明媚な土地で日照時間にも恵まれ、完熟したブドウが育つ。そのため、ワインも果実味豊かで、やわらかく優雅な酸味が特徴だ。
現在、フランチャコルタには約120軒のカンティーナ(ワイナリー)があり、それぞれに個性豊かな味わいを生み出しているが、「フランチャコルタ」を飲みなれた人が“最終的にたどり着く”と評されているのが、1870年創設の「バローネ・ピッツィ―ニ」だ。かつて、ここはピッツィ―ニ男爵家が所有する歴史あるカンティーナだったが、後継者がいなかったことから畑や醸造所が売りに出されたのを、現在取締役副社長を務めるシルヴァーノ・ブレシャニーニが1992年に友人たちとともに共同購入。新生「バローネ・ピッツィ―ニ」として始動したのだった。
ブレシャニーニは、当時をこう振り返る。「当初、私の役割はカンティーナにレストランを併設するプロジェクトの責任者で、醸造担当は私の友人でした。ところが2年後、悲しいことに彼が急逝してしまったのです。私は悲しみに打ちひしがれましたが、『彼の遺志を継がなくては』と、私自身が醸造を担当することを決心しました」
じつは、ブレシャニーニの前職はミラノの「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ」のソムリエで、もともとワインのプロフェッショナルでもあった。また、彼の祖父がカンティーナを持っていたことから、栽培やワイン造りについての知識も備えていた。「日本には『門前の小僧、習わぬ経を読む』という言葉があるでしょう。それと同じですね」とほほ笑む。