BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
ブレシャニーニが最初に手がけたのは、“ブドウの質を上げること”だった。料理人でもあった彼は、「料理とワインのアプローチは似ている。まずは素材ありき。ブドウをリスペクトしなければ、いいワインなどできない」と考えたのだ。「ブドウには如実にテロワールが反映されます。私は、土地の個性を生かすのは当然ながら、いきいきと生命力に満ちたブドウを育てたいと思いました。そのためには、土にも生命力を宿らせなくてはいけない。ブドウに栄養を与える微生物が気持ちよく棲める土にするための方法が、有機栽培だったのです」
だが、90年代のフランチャコルタでは、誰もその方法を知っている醸造家はいなかった。むしろ、「彼はおかしなことを始めたのではないか」という評判さえ立ったという。だが、幸いなことに農学者で有機栽培に詳しいピエールルイジ・ドンナと出会ったことが、また新たな転機となった。ブレシャニーニは、ドンナの指導を受けながら、98年に有機栽培を始めたのだった。そして2001年にはすべての畑をビオロジックに転換。その成果は、なによりも「バローネ・ピッツィ―ニ」の味わいが物語っている。
フランチャコルタでは現在、畑全体の70%が有機栽培だというが、これはブレシャニーニの大きな功績と言ってよいだろう。「『バローネ・ピッツィ―ニ』のフランチャコルタは、フルーティーでフレッシュな酸味が特徴です。このおいしさは、すべてブドウの生命力によるものだと私は信じています。すっきりとした味わいなので、鮨をはじめとする和食とともに、気軽に楽しんでいただけたらうれしいです」とブレシャニーニは語る。
最後に「今後の夢は?」と聞いてみると、「できうる限り、長くワインづくりをしていたい。気づくと、『どうすればもっとおいしいフランチャコルタがつくれるのか』」ばかり考えているのです」という答えが返ってきた。彼は「このおいしさは、すべてブドウの生命力によるもの」だと言うが、それは彼の真摯な姿勢とたゆまぬ努力の成果であることも、ここに付け加えておかなくてはならないだろう。