BY JUNKO ASAKA, PHOTOGRAPHS BY MANA MIKI
日差しに温められた地面からワラビやツクシ、ふきのとう、たけのこが顔を出す季節。春に芽吹く食材は、そのほろ苦さが最大の魅力だ。古来、「春の皿には苦みを盛れ」といわれるように、植物の生命力をぎゅっと凝縮したかのような山菜の苦みは、冬のあいだに固く縮こまった体を目覚めさせ、春のモードへと切り替えてくれる。
そんな春本番の3月に平野さんが選んでくれたのは、たけのこやふきのとうのほろ苦さとよく合う日本ワイン、勝沼醸造の「アルガーノ 露是」だ。
<今月のワイン|勝沼醸造「アルガーノ 露是 2016」 >
「勝沼醸造といえば、山梨県を代表するワイナリー。日本固有種である甲州の世界的地位向上に大きく貢献した作り手であり、いま人気のワイナリーツアーもこの勝沼醸造が牽引してきました。甲州種など山梨のブドウ品種で食事と一緒に楽しめるワインをつくっていて、この『アルガーノ』シリーズはソムリエからの評価も高く、レストランや和食店などでもよく扱われています」と平野さん。
その中で今回ピックアップした「アルガーノ 露是」は、甲州と並んで山梨を代表するブドウ品種、マスカット・ベーリーAを使ったロゼワイン。やさしいサーモンピンクの色合いで、お花見のお供にもぴったりだ。「酸味とタンニンをそれぞれほどよくもっているロゼは、基本的に食事に合わせやすいワイン。日本の食事は繊細なものが多いので、タンニンが強すぎるワインだと料理や素材の繊細さが隠されてしまいます。その点、ロゼはストライクゾーンが広いので、和食はもちろんエスニックや中華まで、難しいことを考えずにペアリングを楽しめます」
「この『アルガーノ 露是』はとてもフレッシュでチャーミングな印象。まさに日本のロゼワインですね。マスカット・ベーリーAらしくイチゴのような感じもあり、タンニンがやわらかく軽やか。ロゼにも濃いものから薄めのものまで幅がありますが、これはどちらかというと薄めで軽やかなので、繊細なたけのこの風味とも好相性です」。ほかにも、馬肉のタルタルや生ハムなどにも合いそう!と平野さん。
オリーブオイルとアンチョビと一緒に炒めたふきのとうに、バターの風味を加えた絶品“ふきのとうソース”が、旬のサワラとたけのこをグンとおいしくブラッシュアップ。少し冷やした「アルガーノ 露是」も、料理と一緒に味わうことでいっそう魅力的に感じられる。これぞまさにペアリングの妙!
「苦みを楽しむ幸せ、ってありますよね。ワインのもつ心地いい苦みと、生命を感じる山菜の苦みを合わせる幸せ。山菜を食べる国は、日本以外にはあまりないそうです。芽を摘んで、その独特のほろ苦さ、繊細さを楽しめるのは、日本の食卓の特権ではないかしら」
<今月のレシピ|サワラとたけのこのソテー ふきのとうソース>
材料(2人分)
サワラ2切れ、たけのこ(ゆでたもの)1/2本、ふきのとう40g、にんにく1/2かけ、アンチョビフィレ2枚、オリーブオイル・バター・小麦粉・塩 各適宜
1. ふきのとうは黒ずんでいる部分を取り除き、塩を加えた湯で1〜2分ゆでた後、水にさらす。水気をぎゅっと絞り、みじん切りにする。にんにくはつぶし、アンチョビはみじん切りにする。
2. フライパンにオリーブオイル大さじ1とにんにくを入れて弱火にかけ、いい香りがしてきたら、アンチョビ、ふきのとうを入れて中弱火で炒める。2分ほど炒めたらバター大さじ1を加え混ぜて火を止める。
3. サワラには塩をふって30分おいたあと、水気を拭き、小麦粉を薄く全体にまぶす。たけのこは下のほうは半月切り、穂先のほうはくし型に切る。
4. フライパンにオリーブオイル大さじ1を熱し、サワラ、たけのこを加えて中火で両面焼く。
5. 焼きあがった4. を盛り合わせ、温めた2のソースを、ところどころに散らすようにして乗せる。
平野由希子
素材を生かしたシンプルでおいしい料理に定評のある料理研究家。書籍や雑誌、広告で活躍するかたわら飲食店のプロデュースや商品開発も手がける。ワイン好きとして知られ、ワインバー「8huit.」のオーナーでもある