パリを拠点にグローバルに活躍するパティシエ、長江桂子さん。日頃は世界各地でお菓子の開発や監修・指導にあたるほか、要人たちの晩餐会でも腕を揮う長江さんのデザートを、この夏「クレソンリバーサイドストーリー 旧軽井沢」で楽しめる。自然に囲まれた気持ちのよい空間に身を置き、五感に響く、瞬間のアートをぜひ味わってほしい

BY MIKA KIMAMURA, PHOTOGRAPHS BY MIDORI YAMASHITA

画像: 「エキゾチック・ヴァシュラン」ライムのメレンゲの中には、ココナッツミルクで炊いたタピオカ、ひと手間加えたパイナップル、パッションフルーツにマンゴー、ココナッツソルベ、ココナッツのチュイル。それらをココナッツピュレで作った軽いムースでふわりと覆って。ピニャコラーダのソルベ、マンゴーのソースとともに楽しむエキゾチックな夏の涼味。「コラボレーションデザートセット KEIKO NAGAE meets 旧軽井沢」¥3,300 全てお飲み物(コーヒー、紅茶、ハーブティー)付き<サービス料・別>

「エキゾチック・ヴァシュラン」ライムのメレンゲの中には、ココナッツミルクで炊いたタピオカ、ひと手間加えたパイナップル、パッションフルーツにマンゴー、ココナッツソルベ、ココナッツのチュイル。それらをココナッツピュレで作った軽いムースでふわりと覆って。ピニャコラーダのソルベ、マンゴーのソースとともに楽しむエキゾチックな夏の涼味。「コラボレーションデザートセット KEIKO NAGAE meets 旧軽井沢」¥3,300 全てお飲み物(コーヒー、紅茶、ハーブティー)付き<サービス料・別>

 全国的にうだるような暑さが続き、休日には少しでも涼しい場所へ移動したくなる。そんなとき、たとえば東京から車で2時間強の避暑地・軽井沢は有力な候補。洒落たカフェや気軽なビストロ、蕎麦屋から正統派のフレンチまで、食の楽しみも満載のエリアだ。
 当サイトでお菓子のレシピを紹介しているパリのパティシエ、長江桂子さんが、軽井沢のデザートレストランでオリジナルの新作デザートを作っていると聞き、早速車を走らせた。

画像: みずみずしい苔と風にそよぐ樹々の緑が眩しい森の中の一軒家レストラン「クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢」。庭の奥には小川が流れ、かつてクレソンが自生していたことから店の名前に。テラス席で楽しむお客様が多い

みずみずしい苔と風にそよぐ樹々の緑が眩しい森の中の一軒家レストラン「クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢」。庭の奥には小川が流れ、かつてクレソンが自生していたことから店の名前に。テラス席で楽しむお客様が多い

 軽井沢銀座から奥の小道を辿れば、冴えわたる緑の中に「クレソンリバーサイドストーリー 旧軽井沢」が現れ、花の咲き乱れるエントランスが迎えてくれた。今夏、この自然がそのまま残された緑豊かな場所で、長江桂子さんが考案し、作るデザートが楽しめるのだ。
 

画像: デザートにソースを添える長江桂子さん。パリ在住だがこの夏は軽井沢で生活し、デザートを作り、レストランスタッフのパティスリー教育に携わる

デザートにソースを添える長江桂子さん。パリ在住だがこの夏は軽井沢で生活し、デザートを作り、レストランスタッフのパティスリー教育に携わる

 長江さんはミッシェル・トロワグロ率いる「オテル・ランカスター」や、三つ星レストラン「ピエール・ガニェール」でシェフ・パティシエを務め、現在はパリを拠点にフリーランスとして活躍するスーパーパティシエだ。各国で菓子ブランドや店舗の立ち上げ、メニューのプロデュース、国際的な晩餐会やイベントを手がけ、文字通り世界を飛び回る。グローバルに信頼の厚い長江さんだが、自分のお店は今は持たないとのこと。なので、長江さんのデザートをリアルに味わう稀少な機会でもある。

「この地の風景をデザートに」。
その思いを叶える生産者との出会い

画像: 「桃のバーベナ風味」。爽やかなバーベナが香る桃のコンポートと、軽やかに仕上げた口どけのよいバラ風味のクリーム、桃のジュレ、フロマージュ・ブランのソルべ。桃のピュレをラズベリーでほんのりと色づけし、バラの香りをまとわせて乾かし、花びらに見立てて桃のコンポートの上に。クラシックなフランス菓子であるサクリスタン(まぶした砂糖をキャラメル状になるまで焼き上げたねじりパイ)とバーベナの葉の砂糖がけ、バーベナを漬け込んで香りを移したシャンティが横に添えられている

「桃のバーベナ風味」。爽やかなバーベナが香る桃のコンポートと、軽やかに仕上げた口どけのよいバラ風味のクリーム、桃のジュレ、フロマージュ・ブランのソルべ。桃のピュレをラズベリーでほんのりと色づけし、バラの香りをまとわせて乾かし、花びらに見立てて桃のコンポートの上に。クラシックなフランス菓子であるサクリスタン(まぶした砂糖をキャラメル状になるまで焼き上げたねじりパイ)とバーベナの葉の砂糖がけ、バーベナを漬け込んで香りを移したシャンティが横に添えられている

 長江さんによるコラボレーションデザートは3皿。食材で夏をしっかり感じさせてくれる「桃のバーベナ風味」は、バーベナの爽やかな香りが桃を引き立て、軽いバラ風味のクリームやフロマージュ・ブランのソルベのミルキーさで、味わいが重層的に。バーベナは「レモン・バーベナ」とも呼ばれ、フランス語名は「ヴェルヴェーヌ」。レモンの香りのするハーブだ。
「初めてこの庭に足を踏み入れたときの風景の印象をデザートにしようと思ったんです。みずみずしいグリーン、樹々の合間から差し込む光、樹々にそよぐ風、そして小川のせせらぎ。何もかもがエレガントでした」

「桃とバーベナを主役にしたい」と閃いた長江さん。日本では良質なバーベナは手に入りにくいが、軽井沢には野菜とハーブの素晴らしい生産者がいることも理由のひとつだった。数年前に軽井沢で仕事をしたときに知り合った「軽井沢サラダふぁーむ」の依田義雄さんと美和子さん夫婦である。依田さんの畑にはいつも近隣の料理人たちが野菜とハーブを求めて訪れる。地元は無論のこと、東京の名だたるレストランのシェフたちも依田さんの野菜を取り寄せている。「依田さんがバーベナを育てているのを存じ上げていたので、今回のデザートは絶対にこの組み合わせで行こうと思いました」

画像: レストランで使うバーベナを摘みに、農園を訪れる長江さん。「香りがとてもいいし、とにかくハーブが生き生きしています。依田さんのバーベナがあるからこそ、あのデザートを作ることができます」と長江さん。右は温厚な笑顔の園主・依田義雄さん。軽井沢「ハルレニテラス」にて、採れたて野菜と加工品のセレクトショップ「karuizawa vegetable ココペリ」も営む

レストランで使うバーベナを摘みに、農園を訪れる長江さん。「香りがとてもいいし、とにかくハーブが生き生きしています。依田さんのバーベナがあるからこそ、あのデザートを作ることができます」と長江さん。右は温厚な笑顔の園主・依田義雄さん。軽井沢「ハルレニテラス」にて、採れたて野菜と加工品のセレクトショップ「karuizawa vegetable ココペリ」も営む

 依田さんの畑は、軽井沢の中心部から車で20分ほど。少量多品種を有機栽培で育てている。家々に囲まれているが、その場所だけ空がパーッと開け、風が気持ちよく抜けていく。「住宅街なので農薬は使えないし、使わない。野菜たちが心地よく育つ環境づくりを心がけています」と、依田さんは話してくれた。
 ここは、料理人たちが自分の使いたいものを自分で摘み取って申告するシステム。「使いたい野菜のサイズや状態を見極めて収穫できるのがありがたい。しかも、自分で収穫した野菜だから思い入れが深くなり、料理にも力が入ります」と長江さん。
 その日も長江さんの手には、元気いっぱいのバーベナがあった。

お客様の最高の「瞬間」を、
手間ひまかけてスタッフと共に創りあげる

「レストランのデザートは、その場での特別な瞬間を楽しんでいただくもの」と語る長江さん。今回、供される3品も、お客様の一瞬の喜びのために、五感に響くさまざまな工夫が凝らされている。
 冒頭の「ヴァシュラン」は、焼いたメレンゲにクレーム・シャンティやアイスクリームを合わせたデザート。19世紀にブラッスリーやレストランのデザートとして、リヨンで誕生したと言われる。長江さんはこれを、エキゾチックな南国フルーツでモダンなデザートに。しかも、その演出がドラマチックだ。重ねた深皿に店の庭のシダをあしらい、庭のミントとドライアイスをひそませて、テーブル上で白い煙が出てくる仕掛け。ミントの澄んだ香気が一瞬ふわりとたちのぼり、一気に涼しい空気に包まれる。

画像: 「フォレ ノワール」バニラとトンカ豆のチョコレートパルフェに、ショコラのシガレット生地、サワーチェリーのコンポート。ショコラのクレーム・シャンティに、生のさくらんぼ、カカオニブ入りのチュイル、キャラメライズしたピーカンナッツ。ラズベリーパウダーで華やかに演出し、横にはさくらんぼやオレンジをマスカルポーネクリームにのせて。温かいサワーチェリーのジュビレ(※フルーツをソテーした温かいソース)をお客様の前で添えて完成。長江さんとスタッフが摘んだサワーチェリー「ノーススター」が主役のひと皿

「フォレ ノワール」バニラとトンカ豆のチョコレートパルフェに、ショコラのシガレット生地、サワーチェリーのコンポート。ショコラのクレーム・シャンティに、生のさくらんぼ、カカオニブ入りのチュイル、キャラメライズしたピーカンナッツ。ラズベリーパウダーで華やかに演出し、横にはさくらんぼやオレンジをマスカルポーネクリームにのせて。温かいサワーチェリーのジュビレ(※フルーツをソテーした温かいソース)をお客様の前で添えて完成。長江さんとスタッフが摘んだサワーチェリー「ノーススター」が主役のひと皿

「フォレ ノワール」は、フランス語で「黒い森」の意味。古くから作られてきた地方菓子で、チョコレート風味のビスキュイ、クレーム・シャンティ、森の果実であるさくらんぼを重ねたケーキだ。長江さんはチェリーにこだわり、長野・中野市の果樹園「武六園」へ。流通量から市場に出回る機会のない果実を無駄にするのは忍びないという思いもあり、サワーチェリーの収穫にスタッフとともに励んだ。
「武六園さんのサワーチェリーの酸味のおかげで、このデザートの味が決まったんです」。皆で手摘みしたチェリーは、コンポート、そしてジュビレと呼ばれる温かいソースとしても登場。冷たいパルフェ・グラッセに温かいソース冷温のコントラストが、鮮烈な印象を残す。また、クリスピーな食感にもカリカリ、シャクシャク、ほろっとしたカリカリ感など、数種類の口当たりを用意して、多彩な食感をひと皿に盛り込む。

画像: 厨房は常に真剣勝負の場。左から神場由さん、長江さん、武井健太朗さん

厨房は常に真剣勝負の場。左から神場由さん、長江さん、武井健太朗さん

 この夏、長江さんにはもうひとつのミッションがある。レストランのスタッフの育成だ。レストランデザートを担当したことのないパティシエや、デザート作りをしてこなかった料理人に伝えたいことが、たくさんあるという。「お客さまの一瞬の喜び」を実現するには、お皿の上のお菓子はもちろん、サービスのタイミングも重要だ。長江さんは、パティシエやサービススタッフにこまやかな指示やアドバイスを伝え、スタッフも懸命にそれを吸収していく。

 10年のパティシエ歴のあるチーフパティシエ・神場由さんは、「デザートは、見た目だけじゃなくて、味わい、食感、香りなど五感で楽しむものだと知りました。また、長江さんは食材を大切にされていて、生産者さんの想いまで伝えてくれます。今まで生産者さんとお会いすることがなかったので、こんな世界があるのだと新鮮で、目が開きました」と話す。
 料理人としてこのレストランで働いてきた武井健太朗さんは「メニュー構築のプロセスと考え方に学ぶことが多く、勉強になります。一緒に生産者さん巡りをしましたが、彼らと長江さんのやりとりを聞くことも刺激になります」

 レシピに合わせて食材を注文するのではなく、生産者さんとやりとりを重ね、食材に合わせてレシピを組み立てていく。「まずは会いに行ってその方の想いを大切に、場の空気感、風景、食べた時の第一印象など織り上げてレシピにしていく」と長江さん。そのようにして、例えば秋に美味しい栗が育っていると聞けば、栗のデザートを考案する。
 長江さんが長年携わってきた三つ星レストランでは、デザートはコースの一環として存在しているため、パティシエは料理人と同じく、食材に対する知識を深め、それを主役にレシピを考えていくことが多い。そんな長江さんのデザートは、素材自身の持つ糖度を引き出す調理をすることで、添加する糖分はぐっと控えられている。どこまでも軽快なのは油脂量を抑えているから。主役の素材の味わいのインパクトはしっかり、食べ心地は軽やか。華やかで優雅な喜びを満喫しつつ、身体に優しいスイーツなのだ。

 軽井沢での長江さんのデザートは、土地の食材にインスピレーションを得て、この季節でしか表現できないひと皿。そう、この夏しか出合えない味。
 秋には、秋ならでは素材を用いたデザートに加え、長江さんが手がけるアフタヌーンティーが登場するという。何度でも車を走らせて通いそうな予感がしてきた。いや、次はシードルやワインと合わせて楽しむために、新幹線に乗り込もうか。

画像: 物語のなかへ誘われそうな気配が漂う、クレソンリバーサイドストーリー 旧軽井沢のエントラス。グランドオープンは来春予定。現在は、長江さんの手がける「コラボレーショデザートセット」のほか、オリジナルのアフタヌーンティーなどを提供するレストランと、焼き菓子などのテイクアウトができるパティスリー部門のみオープン

物語のなかへ誘われそうな気配が漂う、クレソンリバーサイドストーリー 旧軽井沢のエントラス。グランドオープンは来春予定。現在は、長江さんの手がける「コラボレーショデザートセット」のほか、オリジナルのアフタヌーンティーなどを提供するレストランと、焼き菓子などのテイクアウトができるパティスリー部門のみオープン

クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢
住所:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢680-1
営業時間:10:00〜19:00(17:00LO)
     ※9月1日以降は~18:00(17:00LO)
不定休
TEL. 0267-46-8037
公式サイトはこちら

※記事中のデザートは、全て夏限定「コラボレーションデザートセット KEIKO NAGAE meets 旧軽井沢」¥3,300 全てお飲み物(コーヒー、紅茶、ハーブティー)付き<サービス別>。9月14日まで提供予定。

画像: 長江桂子(ながえ・けいこ) 学習院大学を卒業後、ソルボンヌ大学に留学。ル・コルドン・ブルーでディプロマを取得。「ラデュレ」を経て、ロンドン「スケッチ」のオープニングスタッフに。2003年ヤニック・アレノ率いる「オテル・ムーリス」、2004年「オテル・ランカスター」シェフパティシエ、2008年パリ「ピエール・ガニェール」シェフパティシエを歴任。2012年、ガストロノミー界のコンサルティング会社「AROME」をフランスで設立。パリを拠点に、世界各地にて菓子ブランドや店舗の立ち上げ、商品開発、技術指導、監修などを手がける

長江桂子(ながえ・けいこ)
学習院大学を卒業後、ソルボンヌ大学に留学。ル・コルドン・ブルーでディプロマを取得。「ラデュレ」を経て、ロンドン「スケッチ」のオープニングスタッフに。2003年ヤニック・アレノ率いる「オテル・ムーリス」、2004年「オテル・ランカスター」シェフパティシエ、2008年パリ「ピエール・ガニェール」シェフパティシエを歴任。2012年、ガストロノミー界のコンサルティング会社「AROME」をフランスで設立。パリを拠点に、世界各地にて菓子ブランドや店舗の立ち上げ、商品開発、技術指導、監修などを手がける

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