TEXT&PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO
宇治茶の主産地と知られる京都。古くからお茶文化が息づく街であり、最近では、日本茶をさまざまなスタイルで楽しめる店が増えている。そこで今月は、上質なお茶時間を過ごせる店を紹介。第3弾は「冬夏」へ。
河原町丸太町「冬夏」
京都御所と鴨川に挟まれた住宅街に店を構える「冬夏」。築100年余りの広々とした日本家屋の一室、席数をあえてカウンター6席に絞り、日本茶をじっくり味わえる店造りがされている。
写真は、2煎目を淹れていただいているタイミングで出される一つめの菓子。この日は、植物性素材で作るタルトタタン
ティールームでいただけるお茶は、農薬や化学肥料を使わない、オーガニックの日本茶のみ。日本茶専門店の多くは、いつも変わらぬ店の味を提供できるように、産地や品種、蒸し具合も様々な茶葉をブレンドする”合組(ごうぐみ)”を行っているが、こちらでは、あえて単一農園の茶葉を使用。農薬や化学肥料に頼らず育てられた茶葉は、茶樹の生命力を鍛え、茶葉自らの力で滋味を醸成。産地、さらには畑ごとの茶樹の違い、製法、施肥の有無、収穫年によって、味がまったく変わってくる。
数年前、「冬夏」で煎茶を初めていただいた際、自分が知っている煎茶とはニュアンスが全然違っていて、驚いた。それは、クラシックな作り手のワインしから知らなかった時に、ナチュラルワインを飲んだ時の感覚に似ていてた。
現在は、お茶をゆっくり楽しんでもらえるように予約制かつ飲み比べコースが基本に(席が空いている場合は入店可)。茶葉が持つ個性の違いを味わえるように、常時10種類前後から2種類を選べ、飲み比べも楽しめる。
オーナーも20年以上愛飲しているという「煎茶あさつゆ」は、滋賀県朝宮で40年以上に渡り、無農薬、無肥料でお茶を育てている茶園の茶葉を使用。あさつゆ種は、現在はほぼ姿を消した宇治発祥の品種で、その一番茶は、天然玉露と称されるほど、玉露と間違うほど甘みと旨みが感じられる。さらに、マスカットのような果実感もあり、コロコロと喉を転がるような爽快さも。後味がすがすがしいのも自然茶の特徴だ。
まず1煎目はお茶のみを味わい、2煎目以降はお茶請けとのマリアージュを楽しめる。今回一つ目に選んだお茶請けは、化学調味料や保存料不使用の漬物。昔ながらの製法で作られる漬物は、野菜本来の味が楽しめ、オーガニックの日本茶とも寄り添う味わいだ。
2つめのお茶は、宮崎県五ヶ瀬産「釜炒茶在来種」。国内のほとんどの茶園が、品種改良された”挿し木苗”によって栽培される改良種の茶葉を生産しているが、在来茶は、古くからその地に自生している野生種で現在ではほとんど流通していない希少な品種になっている。五ヶ瀬産「釜炒茶在来種」は、標高600~700mに位置する江戸時代から続く釜炒茶の産地、五ヶ瀬に90年近く実生している茶樹から摘んだ茶葉を使用。蒸した後に釜で炒り、焼きたてのパンのような香りとカラメル感を感じ、胡椒や山椒を思わせるスパイシーな後味も特徴的。2つ目の菓子に選んだタルトタタンのカラメルのほろ苦さともよく合っている。このタルトタタンは、京都・岡崎に店を構えるタルトタタンの人気店「ラヴァチュール」に、別注した、植物性の材料で作ったベジケーキに。植物性の材料のみで作ることで、より日本茶との相性が高まっている。
オーナーは長年ギャラリーを営んでいるだけあり、お茶を飲むための設えや道具、空間も洗練されていて、茶室にいるような凜とした空気感も心地いい。どのお茶も6、7煎まで楽しむことができ、煎を重ねるごとに変化する味やアロマを追いかけながら、新しい日本茶との出会いを感じることができる。
「冬夏」
住所:京都市上京区信富町298
営業時間:11:00~18:00(17:30LO)
定休日:火曜、水曜
TEL. 075-254-7533
予約制(前日まではWeb予約、当日は電話で受付。席が空いている場合は、予約なしでも利用可)
公式サイトはこちら