BY KIMIKO ANZAI
“スペイン最高峰のワイン”として圧倒的存在感を放つのが「ベガ・シシリア ウニコ」だ。土着品種ティント・フィノ(テンプラニーリョ)を主体に国際品種のカベルネ・ソーヴィニヨンなどをブレンド、10年以上もの熟成を経て生まれるその味は、豊かで深みのある果実味とシルキーなタンニンが特徴的。優雅さと力強さを持ちあわせ、時にセンシュアルな表情を覗かせる。
「ウニコ」が世界的に知られるようになったのは、1929年、スペインで開催されたバルセロナ万国博覧会で金賞を受賞したことがきっかけだった。ボルドースタイルでありながらもティント・フィノの個性がしっかりと感じられるスペインならではのワインは、世界のワイン愛好家をたちまち魅了した。
「ベガ・シシリア」の歴史は1864年、ボルドーでワイン造りを学んだリビオ・レカンダがボルドー品種の苗木をスペインに持ち帰り、マドリッドの北方に位置するリベラ・デル・ドゥエロに植樹したことに始まる。その後、息子のエロイ・レカンダが64年にワイナリーを創設した。「ウニコ」のファーストヴィンテージは1898年。当初は友人と楽しむためだけに造られていたが、このバルセロナ万国博覧会を機に「ウニコ」は世界中から求められるようになっていった。
こんな逸話がある。英国の名宰相と評されたサー・ウィンストン・チャーチルは、ある日スペイン大使との昼食会で「ウニコ」を飲んだ(ヴィンテージは不明)。すると彼は、「とてもおいしい。ボルドーのどこのシャトーですか?」と聞いたという。チャーチルは単に酒豪であるだけでなく、ワインやシャンパーニュの銘柄にもこだわりを持つ“通”でもあった。「ウニコ」がスペインのワインと知り、感心していたとボデガ(ワイナリー)に伝えられている。
だが、逸話はこれだけではない。ゼネラルマネージャーのアルベルト・アルバレス氏はこう話す。
「リベラ・デル・デュエロにおいてDO(デノミナシオン・デ・オリヘン/原産地呼称)が制定されたのは1982年のことでした。この時、『ウニコ』がボルドー品種をブレンドしていたことから、ワイン法においてもこのことが認められたのです。DOのほうが『ベガ シシリア』のワイン造りを参考にしてくれたのですね(笑)」。
また、スペインワインの歴史の上で避けられないのが1939年から75年まで続いたフランコ政権下におけるワイン造りだ。スペイン内戦以降、高級ワインよりも安価なテーブルワイン造りが奨励されていたが、そのような状況下においても「ベガ・シシリア」はみずからの信念に基づき、“世界最高品質のワイン”を造り続けた。そして、フランコ政権が終焉を迎えた1975年以降も、素晴らしいワインを世に送り続けている。
そして、ボデガは新たな転機を迎えた。アルバレス家が1982年に「ベガ・シシリア」のオーナーとなったのだ。ワインを長期熟成させれば、市場に出るまで多くの資本を擁する。前オーナーからボデガ売却の相談を受けたダヴィド・アルバレス・ディアスが「ベガ・シシリア」のブランドを守るために買い取ることを決意したのだ。アルバレス氏はこう語る。
「『ウニコ』は世界でも類を見ない特別なワインです。なぜなら、これは“時”を楽しむワインなのですから。木樽で発酵、その後小樽で熟成させ、さらに大樽で4年、最後に瓶内で5年という工程を経て、ようやくリリースされるのです。皆様には、この“時”が生み出す味と香りの変容を楽しんでいただきたいと思います」。
ちなみに、「ウニコ」とはスペイン語で“唯一無二”の意。その名の通り、この類まれなる美しきワインは、この上なく幸福な時間へと誘ってくれるはずだ。
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