サリー・ワイルという名前を聞いたことがあるだろうか。昭和初期に来日した料理人で、今の日本の西洋料理の礎を築いたひとりだ。彼が育てた料理人の系譜を継ぐ場を訪ねてみれば洋食の店の白眉に出合う。ワイルの志を継ぐ初代から4代目の店主が店を守る「銀座 みかわや」。この店が長く愛され続ける理由は何か。

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY MASAHIRO GODA

四代にわたり、ゲストの声に耳を傾け、
手間ひまかけて伝統の味を守る
「銀座 みかわや」

 タラバガニのうま味が口に広がる「かにクロケット」、自家製デミグラスソースが素材の味を引き立てる「ハンバーグステーク」と「仔牛のカツレット」。厳選された食材と伝統的なフランス料理の技法で丁寧に作られた、端正で上品な味と優雅な佇まい。銀座4丁目の交差点に近い、創業から77年の老舗洋食店は、毎日、昼夜を分かたずにぎわっている。

画像: 「かにクロケット」¥3,900。タラバガニが40%も入る贅沢な一品。ベシャメルソースは、ナイフを入れたとき流れ出てしまわないよう、少し固めに仕上げている。細かなパン粉でカラリと揚げ、軽やかな後味に。

「かにクロケット」¥3,900。タラバガニが40%も入る贅沢な一品。ベシャメルソースは、ナイフを入れたとき流れ出てしまわないよう、少し固めに仕上げている。細かなパン粉でカラリと揚げ、軽やかな後味に。

画像: 「ハンバーグステーク」¥3,300。お店で出すビーフシチュー用の牛バラ肉の端材を挽き、豚挽き肉と合わせているのでジューシーさが違う。

「ハンバーグステーク」¥3,300。お店で出すビーフシチュー用の牛バラ肉の端材を挽き、豚挽き肉と合わせているのでジューシーさが違う。

創業者の渡仲(となか)豊一郎は、ワイルが「ホテルニューグランド」に在職中にその厨房で腕を磨き、1948年、「フランス料理 みかわや」の看板を掲げた。洗練された味と雰囲気、温かなサービスに、親子二代、三代と通い続ける常連も。人気の秘密について、豊一郎の孫にあたる四代目店主・渡仲晋平は「お客さまの声に耳を傾けてきたからでしょうか」と語る。

 ここでは、食事の際には必ず日本茶が出され、テーブルには箸も置かれる。パンの代わりにご飯と漬け物を選ぶこともできる。これはすべてゲストの要望に応えた結果だとか。今も、店主自ら客席でサービスし、ゲストとの対話を欠かさない。「店の味をいちばん知っているのはお客さまです。そのご意見が私たちの味を守ってくれています」。だから、味についてのコメントは逃さずチェックし、クォリティを保つ努力をしている。手間を惜しまない料理人たちの存在が大きいのは言わずもがな。2週間以上かけて作り上げるデミグラスソース。鶏と和牛を使い、半量になるまで煮つめたダブルコンソメ。作り方は創業当時からほぼ変わらず、時代によって変化した食材や調味料に合わせて配合は変えている。

画像: 「仔牛のカツレット」¥4,200。仕上げにかける澄ましバターがおいしさをプラス。ワイルはドイツ語圏のスイスに育ったので、ウインナ・シュニッツェル(仔牛のカツレツ)やビーフストロガノフもメニューに載せていた。

「仔牛のカツレット」¥4,200。仕上げにかける澄ましバターがおいしさをプラス。ワイルはドイツ語圏のスイスに育ったので、ウインナ・シュニッツェル(仔牛のカツレツ)やビーフストロガノフもメニューに載せていた。

「ワイルさんから技と心を教わったと、祖父は生前話していたそうで」。惜しみなく与えられた技術とゲストを大切にする姿勢。初代が伝えられたレストランの矜持が、これからも店を守り続けることだろう。

画像: 四代目店主の渡仲晋平。「祖父は僕が12歳のときに他界したので、直接ワイルさんの話を聞いたことはないんです。ただ、父はワイルさんが再来日した際、祖父に連れられて羽田空港へ出迎えに行ったと聞いています。また、集客に苦しんだ開業時、ワイルさん直伝のドリア(「銀座 みかわや」では「芝海老のグラタン」)が新聞に紹介され、それをきっかけにお客さまが押し寄せ、店の危機を救ったエピソードも伝わっています」

四代目店主の渡仲晋平。「祖父は僕が12歳のときに他界したので、直接ワイルさんの話を聞いたことはないんです。ただ、父はワイルさんが再来日した際、祖父に連れられて羽田空港へ出迎えに行ったと聞いています。また、集客に苦しんだ開業時、ワイルさん直伝のドリア(「銀座 みかわや」では「芝海老のグラタン」)が新聞に紹介され、それをきっかけにお客さまが押し寄せ、店の危機を救ったエピソードも伝わっています」

銀座 みかわや
住所:東京都中央区銀座4の7の12 銀座三越新館1階
TEL.03-3561-2006 
公式サイト

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