BY KYOKO SEKINE
東京都心、新宿からなら中央線でわずか30分。大都会と変わらぬ商業ビルの建ち並ぶ立川駅周辺だが、そこから歩くこと約8分。空が大きくなり、ホテルへの期待感が高まる頃に環境は一変し、郊外らしい“密”のない空間に到達する。2020年6月8日、緑多き東京の郊外に、ホテル「SORANO HOTEL(ソラノホテル)」がオープンした。
このエリアは“空と大地と人がつながる、ウェルビーイングタウン”として再開発され「GREEN SPRINGS」と名付けられた新街区。その約3.9万㎡もの広大な敷地の一角にホテルが建てられた。新街区のコンプレックスには、レストランやカフェ、多目的ホール、ブティック、案内所、美術館、オフィスなどが造られ、コンセプトタウンとして前述の理念が明快に掲げられている。道路を挟んで国営昭和記念公園が広がる好環境でもあり、エリア全体がアーバンリゾートとして機能しているようだ。
ソラノホテルはコンセプトとして、新街区のそれと同様に“ウェルビーイング”を挙げている。そこでウェルビーイングについて調べたら、「1948年に世界保健機関(WHO)が発表した憲章」の日本語訳を見つけた。そこには、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、社会的にも、すべてが満たされた状態(Well-being)にあること(訳:日本WHO協会)」とあった。つまり、心身ともに健康で幸せな状態をいう。ホテルでは、“心にも体にも健やかなライフスタイル”を提案し、ゲストのウェルビーイングな滞在のために、日本のどのホテルでもなし得なかった細やかな対応を心掛けている。
「時には都会の雑踏を逃れ、わずか30分程電車に乗るだけで、心身ともに寛げる空の大きな大地にショートトリップはいかがだろう」といざなうホテルには、心地いい時間が流れ、両手を伸ばして深呼吸ができるウェルビーイングな環境が揃っている。エントランスは2階にあり、同階にはロビーを挟んで左右にラウンジとオールデイダイニング「DAICHINO RESTAURANT」が造られた。客室は全81室、最小でも52㎡以上の広さがあり、シンプルでスタイリッシュ、細部のマテリアルにまでこだわった上質感を備えている。
バスルームのタオル類にも目が留まった。あえてホテル仕様ではない一般家庭用のブランド「ホットマン」を選んでいる。近隣の青梅市に本社のあるタオル製造の老舗であるホットマンは、細い糸を密度濃く丁寧に織り上げる絹織物製造で150年の歴史があり、さらにタオル製造でも50年以上の実績がある日本メイドの高級ブランドだ。上質でソフト、水切れの良さが自慢のタオルは、本来なら、使う頻度、洗う頻度の高いホテルには向かないと言われている。しかし、ここでは敢えて使い心地の良さ、高級タオルの感触をゲストに提供したいと採用を試みた。さらに、これがフェアトレード認証を受けた国内初の日本製コットンタオルだと知れば、ホテルの環境に対する強い意志や、SDG’sへの思いも読めてくる。
ウェルビーイングを掲げるホテルだけに、食事のこだわりも徹底していた。レストランでは厳選された食材の「適地適作」を柱とし、アラカルトもコース(個室利用の場合)も選べるディナーが提供され好評という。朝食は、伝統に基づく2種から選択する。小さなポーションが6種のウェルビーイング活性御膳「晴れ(ハレ)の朝食」(Well-being Slow Breakfast)と、一汁三菜のシンプルな健康食「褻(ケ)の朝食」(Well-being Light Breakfast)だ。また、すべての基本である“水”には、100%天然水(超軟水、硬度24mg/リットル)が使われている。
館内10~11階には「SORANO SPA」が造られ、温浴施設のインドアスパ、ジャクジー、ナノミストサウナ、ジムスタジオなどを備え、ルーフトップには自慢のインフィニティプールがある。そのプールからは山並みを遠望する爽快なパノラマが広がり、東京で燃えるようなサンセットを観る…… そんな感動的なシーンに出合える。
このホテルのデザインは、グローバルに活躍するフランス人デザイナーのグエナエル・ニコラ氏が担当。アーバンリゾートとしての空間遣いや、木材を多く使ったインテリア、特注家具や調度品などこだわりが詰まり、サステイナブルな発想によるデザインも見どころのひとつだ。週末にちょっと世界を変えたい、深呼吸に行きたい、疲れた心身のリカバーや、またリモートワークにも適した、気持ちのいいホテルの誕生である。
ソラノホテル(SORANO HOTEL)
住所:東京都立川市緑町3-1 W1
電話:042(540)7777
客室数:全81室
料金:¥39,800~(開業記念プラン。1泊1室の室料、最大4名まで宿泊可能。消費税別)
公式サイト
せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
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