「肉好きです」と書いてしまうと、肉の塊をわしわし食べそうなイメージだが、本当は「おいしいものを、少しだけ」がいい。50代になると、さすがに以前のように量を食べられなくなってきた。ところが、友人が誘ってくれたおしゃれ焼き肉屋さん、「ジ・イノセント・カーベリー」のカウンターで肉のフルコースをいただいたとき。完食できるかびくびくだったが、あれれ? するする入るではないか。


「うちの牛肉の口溶けがいいからですよ。サラリと食べられるでしょう? 肉の融点が低いからです」と岡田賢一郎シェフ。

 なるほど。通常、牛肉の融点は人の体温より高いのだが、低ければ、食べるとすぐに溶けて身体にたまることがない。融点の低さは牛の個体差もあるが、おもに餌や育て方によるものなのだとか。いままでなんとなく感じていたことがクリアになった瞬間だった。



岡田賢一郎シェフ。

1990年代、日本のレストランシーンを牽引したカリスマシェフが

再び、キッチンというステージに戻ってきた。

シェフズカウンターでは、シェフ自ら目の前で肉を切り、焼いてくれる



シェフズカウンター。

人気で予約がとりにくいのが、少々残念。

がっつり肉を焼いて食べたいときはテーブル席もいい。

奥には名だたるブランド牛が保管されているセラーが



「ジ・イノセント・カーベリー」のCARVERYとは、「肉の持ち味を損なわないように切り分ける」という意味。INNOCENTは「素材に無垢な気持ちで向き合う」という思いで名付けたという。生産者の育て方や牛への考え方に共感し、しかも味は最高級という和牛だけを岡田シェフが厳選して仕入れ、牛肉の様子を毎日見ながら、食べごろを切り分けてくれる。


 特におすすめは、シェフズテーブルならぬカウンターで味わえる肉尽くしコース「WAGYU LABO」。なかでも、スペシャリテの「WAGYU ステーキタルタル」には、未体験のうまみがたっぷり。その日おすすめの和牛の赤身をハンドスライスし、包丁で平たく伸ばして裂くように叩いていく。空気が入ることで、旨みがぐぐっと増し、ねっとりした食感に。



「WAGYUステーキタルタル」。岡田シェフによって当日選ばれた肉をタルタルに。

くさみを消すためではなく、上質な肉の強いうま味に

ハーブやスパイスをプラスすることでいっそう複雑な妙味に



「叩いていると、最初少し赤黒くなるんです。さらに叩くと、赤くなって、そのあと少し白くなる。これをブルームと呼んでいますが、まさに味が花開く(ブルーム)プロセスです」

 切るのではなく、叩いてペースト状にすることで、タルタルのうまみが増幅する。ここに、セルフィーユと、緑と赤の胡椒も加えてさらに叩き、最後にゴルゴンゾーラチーズを加えてざっくり混ぜる。いちじく入りのバケットに乗せ、仕上げにラトビア産キャビア「オセトラ」を。さまざまな味と食感が渾然一体となり、ひと口食べれば、身悶えしてしまう。そこにシャンパーニュもしくは軽い赤ワインがあれば、さらに幸せ。

 


「WAGYU LABO」コースでは、そのときどきで

遊び心あふれる贅沢な趣向が登場するのが楽しみ。この日は

シャトーブリアンを松阪牛、神戸太田牛、佐賀牛から選んで焼いてもらえる1品が登場。

シャトーブリアンとは、「究極の赤身」と呼ばれ、

牛のヒレ肉の中でも最も厚みがあり肉質がよいとされる部分



 このコース、「焼き」ももちろん素晴らしい。目の前でシェフが焼いてくれる肉は、松阪牛から近江牛、宮崎尾崎牛、太田牛、鹿児島の花乃牛……と、ブランド牛がずらり勢揃い。部位違い、融点違いの食べ比べもある。牛肉へのシェフの知見の深さによって、肉について「知る楽しさ」も満載だ。ワインも豊富で、和牛と国産ワインの相性のよさも発見してしまいました。〆のすき焼き&卵のご飯やガーリックチャーハンに至っては、「もう食べられません」と言いながらも拒めない魅力が……。


 和牛をここまで幅広く、深く、楽しませてくれるお店はなかなかない。オトナのための「WAGYU LABO」。あなたのおいしい店アドレスにぜひ加えてほしい。







THE INNOCENT CARVERY( ジ・イノセント・カーベリー)

住所:東京都港区西麻布1-4-28 カルハ西麻布101

電話: 03(5411)2911

営業時間:17:00〜22:30(LO)

定休日:日曜

WAGYU LABO ¥12,000〜

公式サイト



「この店の、このひと皿。Vol.4」へ


「この店の、このひと皿。Vol.6」へ






  • 1