毎春恒例のNY・メトロポリタン美術館のファッション展。その今年のテーマが物議を醸している。ファッションエディターのバネッサ・フリードマンが関係者に取材した

BY VANESSA FRIEDMAN, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

画像: (写真左)リッポ・メンミの弟子による聖ペテロの肖像(14世紀中頃) (写真右)エルザ・スキャパレリによるイブニングドレス(1939年夏) PHOTOGRAPHS: THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART / DIGITAL COMPOSITE BY KATERINA JEBB

(写真左)リッポ・メンミの弟子による聖ペテロの肖像(14世紀中頃)
(写真右)エルザ・スキャパレリによるイブニングドレス(1939年夏)
PHOTOGRAPHS: THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART / DIGITAL COMPOSITE BY KATERINA JEBB
 

 しかし、まさに今このとき、神聖なものと世俗のものを並べて展示するというのは危険なふるまいだ。カトリック教会が保守派とリベラル派の論争で内部分裂し、世界中で宗教問題が武装化と政治化を招いているとき、なおかつ多くのカトリック教徒の本拠地であるNYという街で。ましてや、メットは最近、その信頼を失いかねない危機的状況を経験したばかりだ。ふくれ上がった財政赤字をコントロールできなかったという理由で、ディレクターの職にあったトーマス・P・キャンベルが周囲の圧力によって2月に辞職。彼の上司であったダニエル・H・ウェイスが館長兼CEOとなり、新しいディレクターを自ら任命する予定になっている。実際のキュレーションにどんな意味づけをしても、一般からたやすく悪評がわき起こるだろう。

 こんな疑問が人々の頭をよぎるに違いない――「より保守的で、絶対主義的に信仰を守る人たちはこの展示をどう思うだろう?」と。

 さらに言えば、高価な装飾というものを明確に拒絶してきたローマ教皇を支持する人々は、これをどう見るだろう? 実際、教皇は、よりシンプルでつつましい生活スタイルを支持するため、教会内で服装にこだわることを禁じてきた。そして、堂々たるボザール様式の宮殿に広々とした正面階段を有するメット自身が、最高級のハイエンドファッションと同様、どう見てもローマ教皇がよしとしないもので成り立っている。参加への敷居の高さとかけられる費用の高さで知られる、コスチューム・インスティテュートの展覧会のオープニング・ナイトパーティ、メットガラなどは言うに及ばずだ。

「この展覧会は、理解と創造性、そしてその過程において、建設的な対話を生み出すものになると確信しています。これこそまさに、われわれの市民社会における美術館の役割です」と、ウェイス館長は言う。

「これが右翼やカトリック保守派、リベラルなカトリック信者にとって物議をかもしかねない企画であることはわかっています」とボルトン。煽情的になりかねない展示品を特定するため、彼はNY大司教区のティモシー・M・ドーラン枢機卿をはじめとする複数のカトリック団体の代表者から助言をもらったという。「展示内容を政治論争の種にしたがる来場者は、つねにいるものですからね」。だがボルトンによれば、展示をとりやめたものはひとつもなかったという。そういった作品は、すでに批判の矢面にさらされてきたからだ。

 とはいえ、この展覧会はボルトンのキャリアにおけるもっとも大きな賭けであり、ウェイス館長にとっては最初の試金石となるだろう。ボルトンは、自身の在任期間中にコスチューム・インスティテュートが世間の話題になるよう仕向けているように見える。そして、その傾向はますます強まっている。彼の前任者で、『Charles James: Beyond Fashion(チャールズ・ジェームス-ファッションを超えて)』展といった、もっと伝統的な展覧会を企画したハロルド・コーダとは対照的だ

「重要なのは、現代的な関心を反映した観点をもつことです」とボルトン。「それが人々の心の琴線に触れ、また共同体の意識とのあいだに相乗効果を生み出すのです」

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