毎春恒例のNY・メトロポリタン美術館のファッション展。その今年のテーマが物議を醸している。ファッションエディターのバネッサ・フリードマンが関係者に取材した

BY VANESSA FRIEDMAN, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

画像: (写真左)ビザンチンの行列用十字架(1000-1050年ごろ) (写真右)ジャンニ・ヴェルサーチによるイブニングドレス(1997-'98年秋冬) PHOTOGRAPHS: THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART /DIGITAL COMPOSITE BY KATERINA JEBB

(写真左)ビザンチンの行列用十字架(1000-1050年ごろ)
(写真右)ジャンニ・ヴェルサーチによるイブニングドレス(1997-'98年秋冬)
PHOTOGRAPHS: THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART /DIGITAL COMPOSITE BY KATERINA JEBB

 ボルトンは、何年ものあいだ、ファッションと宗教の結びつきをテーマにした展覧会について案を練ってきた。「1980年代の”文化戦争”(伝統主義者と進歩主義者のあいだに起きた価値観の衝突)の頃から考えてきた」という。だが、それをメットで開催することを真剣に考え始めたのは、ここ2年ほどだ。その時点では、世界の5大宗教(ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教、キリスト教、イスラム教)にまつわる同美術館のコレクションの調査のような形で考えていたという。

 だが昨年、デザイナーの川久保玲が自身の回顧展を準備していると発表したのち、ボルトンはこのプロジェクトを先送りにした。そしてその後、テーマを絞ってカトリックだけにすることにした。理由のひとつは、欧米のデザイナーの多くがカトリックから影響を受けていることに気づいたからである(今回の展覧会に名前の挙がっているデザイナーで、欧米を拠点としていない者は3名しかいない)。おそらくボルトンが言及したように、欧米のデザイナーの非常に多くがカトリックを信仰して育っているからだろう。例えば、エルザ・スキャパレリ、ジョン・ガリアーノ、リカルド・ティッシ、クリスチャン・ラクロワ、ココ・シャネル、ジャンヌ・ランバン、ノーマン・ノレル、トム・ブラウン、ロベルト・カプッチといったデザイナーたちだ(ちなみにボルトン自身もカトリックである)。

 彼は2015年に、ヴァチカンのローマ教皇庁とのやりとりを始めた。展示用の衣服はヴァチカン美術館からではなく、システィナ礼拝堂にあるローマ教皇の典礼儀式用聖具保管部から借りることにした。その衣装の中には、いまも実際に使われているものも含まれているからだ。18世紀半ばのものから、2005年まで教皇の座にあったヨハネ・パウロ2世の時代に使用されていたものもある。ボルトンによれば、共同で作業することを教会は即座に受け入れてくれたという。とはいえボルトンは、この展覧会について議論するために8回もローマを訪れなければならなかった。展示方法とセキュリティに関しての合意は困難を極め、貸付契約が成立したのは2017年11月のことだった。

 教皇その人に謁見する機会があったのか、教皇は展覧会に賛成しているかどうか知っているのかと尋ねると、ボルトンは、自分は教皇には接しておらず、教皇がこの件に関わっているのかどうかまったく知らないと答えた。

 ローマ教皇庁の公的報道機関である「ホーリー・シー・プレス・オフィス」の報道官、グレッグ・バークはこう語る。「ローマ・カトリック教会は何世紀にもわたって美しいアート作品を生み出し、また奨励してきました。たいていの人が、宗教的な絵画や建築を通してそのことを知っているはずです。今回の展覧会はそうした、めったに目にすることのできない美を分かち合うためのひとつの方法なのです」

 ローマ教皇庁から借りた服飾品は、今も現役で使用されているという事実に鑑みて、展覧会ではほかのファッションアイテムとは分けて展示されている。例えば、もし聖職者のローブと、胸に聖杯の刺繍が施されたジャン=ポール・ゴルチエのドレスが隣り合って並んでいるのを見たときに来場者が感じるであろう非難の気持ちを考えてのことでもあるだろう。

 一見したところ、ボルトンの「ファッション」の定義が完全に欧米に限られていることに関しては、ほとんど考慮されていないようだ。例えば、キューバ系アメリカ人のイザベル・トレドを除けば、南米、もしくはラテンアメリカのデザイナーの作品はひとつもこの展覧会に存在しない。くだんの大陸に、カトリックの図像に魅了されたデザイナーがひとりもいないわけがないはずなのだが。その点について問われたボルトンは、今後の展覧会で改善に努めたいと語った。

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