BY JANELLE ZARA, PHOTOGRAPHS BY LIZ KUBALL, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI(RENDEZVOUS)
2017年12月、『T Magazine』のホリデー号の表紙を飾ったジェイ・Z(Jay-Z)のポートレイトを描いたアーティストのヘンリー・テイラーは、その年の10月末、マドリッドのホテルに滞在していた。ちょうどフランスのアート・フェア「FIAC」が終わったばかりの頃だ。ジェイ・Zのポートレイトを仕上げねばならない期日が迫っていた彼は、iPhoneを使って、ジェイ・Zの写真やビヨンセとのツーショット写真、彼の曲のラップの歌詞など、アイデアソースになりそうなものをネットで探していた。
「ジェイ・Zの2003年の作品『Dirt off Your Shoulder』じゃないが、私も“誰かの肩からホコリを払わせる”ことができたかもしれないね」。ロサンゼルスのダウンタウンにある自分のスタジオで、テイラーは長く伸びたタバコの灰が落ちないようバランスをとりながら言った。一方で、また別の、もう少し最近の曲の歌詞がテイラーの頭にしつこく浮かんでくるという――「俺は黒人じゃない、俺はO.J.だ」。このフレーズは、O.J. シンプソンが殺人事件の公判で主張した言葉の引用だ。シンプソンは、自分が名声と富を得ることによって事態が変わり、アメリカに住む黒人男性を苦しめているさまざまな問題――貧困、警察の残虐行為や拘禁といったものからなんとか離れることができたのだと語った。