BY MICHINO OGURA
画家ヒグチユウコの作品を眺めていると、博物誌や図鑑を眺めているように引き込まれることがある。対象への鋭い観察眼と、それを捉えようとどこまでも細かくなっていく筆致。そこに、独特な可愛らしさやシニカルな視点が加わって、人は彼女の世界の虜になっていく。
ヒグチは多摩美術大学油画科を卒業後、1999年より東京を拠点に画家としてのキャリアをスタートした。大学教授からの「あなたの描く絵はインパクトがあるから、コンスタントに活動したら必ずひとの目にとまる」という助言に従い、ただひたすら休むことなく制作、年に1~2回の個展を開くという地道な活動を続ける。学生時代はグロテスクな具象表現を好んでいたというヒグチの主題は、卒業後に徐々に変化していった。
ヒグチは「アートという枠組みに縛られて、自分の可能性を狭めていたのかも」と当時のことを振り返る。少女やカエル、猫など、身近なモチーフとその背景に物語を感じさせるような作品が主体になるにつれ、自然体で取り組むことができるように。中でも擬人化された猫たちは、少しもの悲しく、愛くるしさを放つ存在。その姿は猫好きたちを熱狂させていく。そんな唯一無二の世界が確立されていく中で、アパレル企業やデザイナーから声をかけられることが増え、仕事の幅が広がった。
2014年には自身初の絵本『ふたりのねこ』(祥伝社)を出版。一方で、さまざまな企業との取り組みは続き、その経験を生かし、2015年には自身がプロデュースするレーベル『ギュスターヴ ヒグチユウコ』を立ち上げる。ここでは、ヒグチが描くモチーフをあしらったアパレルやインテリアなどのディレクションを手がけている。2016年にはラデュレのホワイトデーボックスにアートワークを提供。その後、作品集や絵本は英語、韓国語、中国語など世界の言語に翻訳され、彼女の魅力はグローバルに拡散している。