自叙伝としてのオブジェ

OBJECTS AS AUTOBIOGRAPHY
熱狂的なコレクターであるデザイナーのジョナサン・アンダーソン。彼が情熱を注ぐオブジェの数々と、美の奇才の心の内

BY ALICE GREGORY

 アンダーソンは、“偶発的な創作をするデザイナー”と言ってもいいかもしれない。彼にとって服とは、単にそのときどきに自分の脳裏に浮かぶパノラマのような光景の一部にすぎないのだという。自分が手がけたセーターを着る女性たちの部屋の壁には、どんなアート作品が飾られているか? 彼女たちが飲むのはコーヒーか紅茶か? それは何曜日か? 「たとえばバッグが欲しい人がいるとする」彼は説明を続ける。「その人はあるソファに腰掛けるときに似合うバッグが必要で、そのソファを置くカーペットも必要ということ。逆に言えば、カーペットが、バッグ同様、壁のポスターもかけるレコードも、すべてを決めるってことなんだ」。アンダーソンはこんなふうにして物語を何度も書き替える。彼のスマートフォンには、これまでに収集したアーツ・アンド・クラフツ(19世紀末の英国に起きた美術工芸運動)時代の家具から、未入手の骨董品、プリント柄、テキスタイル、初版本まで、何千ものイメージがストックされている。機内やタクシーの中での退屈な時間や、夜眠りにつくまでの間、彼は催眠状態に陥ったようにわれを忘れて、こうしたイメージを頭の中で動かしてはミニチュアのイメージボードや夢のベッドルームを構想するのだ。しかし、練り上げたイメージの配置が必ずしもコレクションの創作に結びつくわけではない。とにかく自分はひとつひとつのアイテムよりも、それらを入念に組み合わせていくことが好きなのだ、と彼は言う。かつてプラダのウィンドーディスプレイ・デザイナーだった頃も「ふたつのものを組み合わせるのにずっと夢中だった」そうで、その行為は「複数のオブジェを指揮するようなもの」だと形容する。アンダーソンいわく「人生で大事なのは、いかに編集するかだ」。テーブルの上にあった3 台のiPhoneはすべて彼のものかと尋ねると、彼は笑って「そう! これもキュレーションだよ!」と答えた。

〝食べないかもしれないもの〞を買うのが怖くてスーパーでは体がすくみ、バカンスは最も不安になる時期だと言い、インタビュアーの私に「僕がこの席に座る、ってことでいいんですよね?」と尋ねるアンダーソン。彼は息つく間もなくスタッカートをきかせて話し、単語だけの文章や、修辞的な言葉をしきりと繰り返す。ランチの途中で彼は、「人生で大切なのは、より深く知りたいと欲することだよ」と切り出した。「何かに疑問を抱く。これは何を示すのか? 何が言いたいのか? 主題は何なのか? これが好きか? あれが好きなのか? これは好きじゃないのか? これに熱中するか?グッドテイストに傾くか? バッドテイストに傾くのか?何に熱中するのか?」。彼は〝これ〞と言うたびに、テーブルに並んでいたものをつかんだ。ソルトシェーカーにペッパーミル、携帯電話、フォークに一輪挿し……。まるで、気持ちの高ぶりをわざと体で表現するように。また、何かを話し始めても、なかなか最後までたどりつけないのがもどかしくなって「……それで要するに……あ、言いたかったことを忘れちゃった。どこまで話したっけ?」という感じで終わってしまう。「ときどき、一日の長い仕事のあと、家に帰って、タバコを吸って、2時間くらい壁を眺めてぼうっとしたくなるよ」とアンダーソンは言う。彼がそんな気持ちになるのはしごく当然のように思えた。

 子どもの頃のアンダーソンが初めて夢中になったのは、あるメーカーのクラッカーの箱におまけとして入っていたセラミックの小さな動物だった。「何百個も集めていたよ」と言う。壁に備えつけられた格子棚に飾っていたこれらのフィギュアは、今もそのまま北アイルランドの母親の家に残っているそうだ。それから時を経た今も彼の完璧主義的な収集欲は衰えていないが、その対象は多岐にわたるようになった。この夏、アンダーソンが住むロンドンのタウンハウス近くのカフェで会ったとき、彼は多彩な自分のコレクションを代表する、いくつかのオブジェを挙げてくれた。リチャード・タトルの彫刻、イチイ材でできた〝表情がキテレツな〞18世紀のクルミ割り、中国の青磁碗、マガリ・ロイスの巨大な南京錠、イッセイミヤケの服、1930年代の前衛アート誌『サークル』、英国の陶芸家ジョン・ワードの器、第二次世界大戦中に無名のスコットランド人女性が制作した近代主義的なシルバースプーン、英国のウォールペーパー・アーティスト、ハリー・ナッパーが手がけた唯一の椅子が数脚。

 アンダーソンは「車でもPEZ(ペッツ)のケースでも、何かをコレクションしている人と話すと、なんていうか、困ったことになるんだ」と言ってため息をついた。「しまいには、賢者の石(鉛などを金に変えたり、人間を不老不死にする霊薬)を追い求めることになる。欲望に際限がないのが人間だからね。僕はときおり夢見てしまうんだ。ハワード・ホジキンの絵を手に入れて、ドナルド・ジャッド風のランプと一緒に、白いベッドを置いた白い部屋に飾り、その部屋で眠ることができたらって。そこでただその絵を眺めて、テレビを消して、ヨガをして。でも……」。彼は途中で口をつぐみ、ナプキンをいじくりまわした。アンダーソンはロンドンに収納用のスペースを持っていて、彼が〝老婦人の家〞と呼ぶヴィクトリアン様式のタウンハウスの自宅を頻繁に模様替えするらしい。

 

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