アーティストたちは「いま」を伝える表現で世界に警鐘を鳴らした。70回目を迎えた舞台芸術の祭典オランダ・フェスティバルをレポート

BY NATSUME DATE

画像: ジュリアン・ローズフェルト『マニフェスト』はケイト・ブランシェットが13役に扮し、13のスクリーンで同時展開するフィルム・インスタレーション JULIAN ROSEFELDT & VG BILD-KUNST

ジュリアン・ローズフェルト『マニフェスト』はケイト・ブランシェットが13役に扮し、13のスクリーンで同時展開するフィルム・インスタレーション
JULIAN ROSEFELDT & VG BILD-KUNST

『マニフェスト』は、ベルリン在住の映像作家ジュリアン・ローズフェルトによるフィルム・インスタレーション。ケイト・ブランシェットがニュースキャスター、科学者、コンサバ主婦、ホームレスなど13種類の職業や立場の人物に扮した各10分ほどのショートフィルムを、仕切りのない大きな会場で同時上映する。各映像とも、最後に彼女が正面切って著名人のマニフェストを語るという構成になっていて、その瞬間だけ全スクリーンが同調する仕組み。荒涼とした廃墟(ホームレス役)や近未来的施設(科学者役)、MGMミュージカル風の群舞撮影スタジオ(振付家役)など、つくり込まれたバラエティに富む設定と、ブランシェットの各役なりきりぶりを楽しんでいると、突如AIのように無表情になった彼女の口から、硬質な声明が発せられるのだ。

画像: ルーファス・ノリス演出『マイ・カントリー;ワーク・イン・プログレス』 英国各地方の代表が国民の声を伝えるドキュメンタリー演劇。英国ナショナル・シアターの作品 PHOTOGRAPH BY SARAH LEE

ルーファス・ノリス演出『マイ・カントリー;ワーク・イン・プログレス』
英国各地方の代表が国民の声を伝えるドキュメンタリー演劇。英国ナショナル・シアターの作品
PHOTOGRAPH BY SARAH LEE

『マイ・カントリー;ワーク・イン・プログレス』は、EU離脱決定後に全英各地の住民に行ったインタビューを再構成した、英国ナショナル・シアター(NT)によるドキュメンタリー的な演劇作品。各地の代表7名がそれぞれの地元民の意見を代読して演じながら、EUとの離別を決めてしまった英国市民の、偽らざる胸の内を浮き彫りにしてゆく。小気味いい演出をみせたNTの芸術監督ルーファス・ノリスは、昨夏この国論を二分する重要事項が決定された直後に、本プロジェクトを始動。つまり、自国の危急存亡時に国立劇場として何をすべきか、トップとして即断即決して、この作品を創ったということだろう。そしてオランダ・フェスティバルも、今年2月にロンドンで初演されたこの新作の招聘を、異例のスピードで決定した。

 世界は明らかに、不寛容な方向へと急速に傾いている。その中で、社会の声を反映する存在であろうとするアーティストとプレゼンターたちは、各々の方法で足もとを見つめ、危機感をもって現実に対峙している。今年のオランダ・フェスティバルは、その緊迫感を前面に押し出し、圧倒的な迫力で観る者に問いかけてきた。世界中から「いま」を伝える新鮮な表現をセレクトし、集中的に呈示する。国際芸術祭という形態の意義とパワーを、改めて思い知ることができた。

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