繊細にして、どこか残虐な物語を思わせる独自の世界観が国内外で高く評価される岡上淑子(おかのうえ としこ)。その貴重なコラージュ作品が一堂に会する初の展覧会が開催中だ

BY JUNKO ASAKA

画像: 《はるかな旅》 A Long Journey, 1953年 高知県立美術館所蔵 © OKANOUE TOSHIKO

《はるかな旅》 A Long Journey, 1953年 高知県立美術館所蔵
© OKANOUE TOSHIKO

 土くれだらけの荒れた大地に、風が吹き抜ける。荒れ野をゆくのは、胴に時計をはめ込まれた一匹の黒犬。強い風に乗ってふわりと浮かび上がった深紅のマントには、人の顔のあるべきところから真っ白な花が咲きこぼれているーー。

 幻想的。優雅にして不穏。繊細にして大胆。コラージュアーティスト、岡上淑子の作品を評する言葉だ。どれもぴったりなようで、まだ何か言い表しきれないもどかしさがある。岡上のコラージュ作品は、見る者の心の奥底をかき乱す、ある種の毒を秘めている。それがじわじわと胸を絞めつけるような“個”的な寂しさを誘うのだろう。モノクロームの画面からは、色彩までもありありと脳裏に浮んでくるようだ。

画像: 《天使の巣》The Nest of Angels, 1952年 高知県立美術館所蔵 © OKANOUE TOSHIKO

《天使の巣》The Nest of Angels, 1952年 高知県立美術館所蔵
© OKANOUE TOSHIKO

 1月20日から、 “幻の”と評されるコラージュ作家、岡上淑子の大規模展が、ゆかりの地、高知の県立美術館で開催されている。幻と言われるゆえんは、その短い制作期間にある。戦後、アメリカ進駐軍が残した『VOGUE』や『LIFE』『Harper’s BAZZAR』などの洋雑誌を切り抜き貼り合わせ、岡上がコラージュ作品を創作したのは1950年から56年までのわずか7年ほど。その後、結婚出産などのために創作から遠ざかったのである。

 1928年、高知市一宮に生まれた岡上淑子は、農林省に勤める父とともに3歳で上京。戦時下に女学校時代を過ごし、コラージュ制作を始めたのは、デザイナーを志して就学した文化学院デザイン学科に通っていたときだった。多趣味な父の影響で小学生のときにカメラを買ってもらい、自ら写真を撮影していたことも関係したのかもしれない。

画像: 《陽気なリズム》The Dance of the Table, 1952年 高知県立美術館所蔵 © OKANOUE TOSHIKO

《陽気なリズム》The Dance of the Table, 1952年 高知県立美術館所蔵
© OKANOUE TOSHIKO

 友人を通じて、作曲家の武満徹から美術評論家の瀧口修造を紹介されたところ、作品をほめられたことから卒業後もコラージュ制作を続け、1953年には瀧口のすすめで初個展を開催。同年、国立近代美術館の『抽象と幻想:非写実絵画をどう理解するか』にも作品を出品する。二度目の個展の際に、岡上は下記のような文章を寄せている。

《日常の生活を平凡に掃き返す私の指から、ふと生まれましたコラージュ。
コラージュ――他人の作品の拝借。鋏と少しばかりの糊。
芸術……芸術と申せば何んと軽やかな、
そして何んと厚かましい純粋さでしょう。
ただ私はコラージュが其の冷静な解放の影に、
幾分かの嘲笑をこめた歌としてではなく、
この偶然の拘束のうえに、意志の象を拓くことを願うのです》
(「コラージュ」1956年より)

画像: 《予感》Premonition, 1952年 高知県立美術館所蔵 © OKANOUE TOSHIKO

《予感》Premonition, 1952年 高知県立美術館所蔵
© OKANOUE TOSHIKO

 瀧口の家を何度か訪れていた際、そこで目にしたシュルレアリストのマックス・エルンストの画集に岡上は大きな衝撃を受けたという。異素材を貼り合わせることで画面に独特の造形的効果をもたらすコラージュは、エルンストも好んで用いた美術技法だ。岡上のコラージュは黒い羅紗紙の上に洋雑誌の切り抜きを貼り付けたシンプルなものではあったが、エルンストのコラージュ作品を見てどれだけ励まされ、また発奮したことだろう。偶然の産物のようにも思える紙上の芸術。そこには確かに岡上自身の強いまなざしが感じられる。

 長く美術界から忘れられていた岡上が「再発見」されたのは1996年。写真史家の金子隆一によって見いだされるや、その独自の芸術性は国内外で高い評価を得ることになった。現在、その作品は高知県立美術館や東京国立近代美術館、東京都写真美術館、栃木県立美術館、ヒューストン美術館、ニューヨーク近代美術館などに収蔵されている。

画像: 《招待》Invitation, 1955年 高知県立美術館所蔵 © OKANOUE TOSHIKO

《招待》Invitation, 1955年 高知県立美術館所蔵
© OKANOUE TOSHIKO

 今年1月に齢90を迎えたことを記念して開かれた今回の個展では、7年のあいだに制作された140点ほどの作品のうち、国内所蔵の約80点が一堂に会する。オリジナルのコラージュ作品、写真作品に加え、コラージュをもとに近年新たに制作されたシルクスクリーンプリントとプラチナプリントも展示される。唯一無二の耽美的世界に浸る貴重な展覧会に、ぜひ足を運んでみたい。

岡上淑子コラージュ展 -はるかな旅

場所:高知県立美術館
会期:1月20日(土)~3月25日(日)会期中無休
住所:高知県高知市高須353-2
時間:9:00~17:00(入場16:30まで)
料金:一般¥900・大学生¥600・高校生以下無料
電話:088(866)8000
※その他割引、無料対象については公式サイトにて

記念講演会「岡上淑子の作品世界」
場所:高知県立美術館 1階 講義室
日時:2月18日[日]14:00~15:30
講師:金子隆一 氏(写真史家)
定員:当日先着50名程度 ※事前予約不要
参加費:無料

公式サイト

 

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