BY MASANOBU MATSUMOTO
ジョナス・メカス写真展『Frozen Film Frames』
|スタジオ35分
今年1月23日に死去した、詩人でアンダーグラウンド映画の巨匠ジョナス・メカス。彼が“映画の延長”として制作した写真シリーズ『フローズン・フィルム・フレームズ』を紹介する作品展が、東京および京都で始まった。
メカスはリトアニア生まれ。当時、ドイツ占領下にあったリトアニアで反ナチスの地下新聞の発行をしていたことで強制収容所に囚われ、第二次世界大戦後も難民収容所を転々としながら、文学や哲学を学び、詩作に励んだ。アメリカに亡命したのちは、NYを拠点に活動。「詩は生まれた国の言葉でしか書けない」と母国リトアニア語での詩を発表し続けるものの、当然、英語圏の人間には伝わらない。そこで彼が手にしたのが映画カメラだった。
メカスはカメラを常に携帯し、ブルックリンのリトアニア移民の日常やNYの街並み、ダリやウォーホルなど当時の前衛アーティストとの交流の様子を記録。その日々の断片を編集した“日記映画”を作るとともに、インディペンデント映画の庇護にも尽力した。

《握手》
PHOTOGRAPH BY JONAS MEKAS
『フローズン・フィルム・フレームズ』は、世界の個人映画や実験映画の蒐集、保存、上映を目的にメカスが設立した「アンソロジー・フィルム・アーカイブス」の運営資金を得るために始られたものだ。自身の映画作品から、ジョン・レノンやウォーホルなどの著名人が写るシーンをピックアップし、ポートレイトとして販売したのである。だが、メカスは、映画から特定のイメージを取り出してプリントに定着させるという行為にすっかり魅了され、当初の目的を離れて、精力的にその制作を続けたという。
それはメカスの撮影スタイルとも関係がある。ボレックスという、アニメーション制作にも応用される16ミリのカメラを使い、スチルカメラで連写するように“コマ撮り”するのがメカス流。彼にとって“写真を撮ること”と“映像を撮ること”は、隣り合わせにあるものだったようだ。そして自ら“写真と映画のあいだ”と称したこの作品に、映像の新しい可能性を見出した。その意味で『フローズン・フィルム・フレームズ』は、メカスが他のフィルムメイカーとは異なる作家であったことを物語る、重要な作品と言える。

写真家、大森克己が撮影したジョナス・メカスのポートレイト
PHOTOGRAPH BY KATSUMI OMORI
京都での展覧会は、書店である誠光社にて。東京展は、新井薬師前にある「スタジオ35分」で開かれている。後者は、写真家、酒航太が主催するバー兼ギャラリースペースで、そのインディペンデントな空気感もメカスの作品を引き立てる。作品シリーズの中から今回展示されるのは、メカスの名を一躍世界的にした映画『オーデン』のフィルムを元にしたカットや、メカス自身やオノ・ヨーコらを写したものなど。また、ニューヨークで大森克己が撮影したメカスのポートレイトも飾られる。