今回のリストは、アートにおける“ものの縮尺”の多様さをテーマにした企画展。朝鮮半島の豊かな生態系を守るアートプロジェクトにまつわる展覧会。そして、新鋭の切り絵作家・福井利佐の「能」をテーマにした個展

BY MASANOBU MATSUMOTO

『The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project』|原美術館 

 1953年、朝鮮戦争休戦後、朝鮮半島をふたつに区切るように誕生した軍事境界線。そのラインから南北に約2kmわたる範囲は、「DMZ(Demilitarized Zone:非武装地帯)」と呼ばれ、長らく民間人の立ち入りが制限されてきた。しかし、そのことにより、DMZには独自の動植物と自然環境からなる生態系が構築され、100種を超える絶滅危惧種を含む約5,000種の生物が生息しているという。人間の対立によって生まれた負のスペースが、皮肉にも、動植物には平和的な楽園になっているというわけだ。

 近年、このDMZを開発しようとする動きもある。その生態系を守りながら、自然と人はいかに共生することができるのか――。2014年、美術家や思想家といった仲間に呼びかけ、DMZの未来に対するビジョンを「Dreaming of Earth Project」というアートプロジェクトで提示したのが韓国人アーティスト、チェ・ジェウン(崔在銀)であった。現在、東京・原美術館で開催されている『The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project』展は、チェ・ジェウン、そして彼女のプロジェクトに賛同したアーティストによる提案を集めたものだ。

画像: チェ・ジェウン《To Call by Name》2019年

チェ・ジェウン《To Call by Name》2019年

画像: (左から) チョウ・ミンスク《DMZ 生命と知識の地下貯蔵庫》 2019年 チェ・ジェウン《hatred melts like snow》 2019年

(左から)
チョウ・ミンスク《DMZ 生命と知識の地下貯蔵庫》 2019年
チェ・ジェウン《hatred melts like snow》 2019年

 DZMで使われていた有刺鉄線を融解し、板状のオブジェクトにしたチェ・ジェウンの《hatred melts like snow》のようなシンボリックな作品もあるが、多くの展示物は、現地調査や資料に基づいたプロポーザル段階のものである。

 たとえば、建築家の坂茂は、環境に極力悪影響を与えず(じつは、今も多数の地雷が埋蔵されている)DMZ周辺を人々が安全に散策するための歩道《竹のパサージュ》を1/2サイズでに美術館の中庭に制作した。スン・ヒョサンは、自然に還る天然素材を使い、渡り鳥が羽を休める空中庭園《鳥の修道院》のドローイングや模型を展示。また、建築家のチョウ・ミンスクは、DMZで発見されたトンネルを再利用して植物の種子とそれにまつわる知識を保管する倉庫を発案し、設営・運営に関するマニュアルまで作った。

 ただ、こういったアイデア以上、実作品としてかたちになる以前のものは、作家たちの独自の視点や豊かな思考のディテールを明確に伝え、また観る者の想像力をいっそう深く働かせてくれるのも事実だろう。

「こうしたビジョンは、海を超えた朝鮮半島の問題だけではなく、生態系の破壊が進む地球全体に関わるものではないか」と会場を訪れたチェ・ジェウンは話した。20世紀におこったローカルな戦争の痕跡、ふたつの国家を隔てる壁、共産主義と資本主義の溝――。本展は、そういったネガティブな象徴であるDZMを、人々が広く“考える場所”として更新する。

画像: チェ・ジェウン《AIR from the DMZ》2019年 PHOTOGRAPHS BY SHIGEO MUTO

チェ・ジェウン《AIR from the DMZ》2019年
PHOTOGRAPHS BY SHIGEO MUTO

『The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project』
会期:〜7月28日(日)
会場:原美術館
住所:東京都品川区北品川4-7-25
開館時間:11:00〜17:00 ※水曜(祝日を除く)のみ〜20:00
(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(ただし7月15日は開館)、7月16日
入館料:一般 ¥1,100、大学・高校生 ¥700、中・小学生 ¥500
電話:03(3445)0651
公式サイト

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