今回のリストは、美術家、横尾忠則の個展。アート・シーンで注目度を高めている“抽象芸術”の今を探る企画展。そして、日本の古美術の“読みとき方”をテーマにした企画展

BY MASANOBU MATSUMOTO

『抽象世界』|国立国際美術館

 本展について、なによりもまず興味深いのは展覧会のあいさつ文だ。そこには「いま抽象芸術が復活しています」とある。振り返れば、美術史において“抽象”がメインストリームであったのは、幾何学的な図像を絵画に用いたワシリー・カンデンスキーらに代表される20世紀初頭の前衛美術、また「アクション・ペインティング」で知られるジャクソン・ポロックが先導した40年代後半から60年代にかけてのアメリカの抽象表現主義の時代。それ以降、抽象的な表現はアートシーンの中心的存在ではなかった。

 しかしながら、近年、アメリカやヨーロッパの主要な美術館の展覧会では、抽象的な作品が以前にも増して多く出展されている。それらは前世紀的のものとは違い、過去のさまざまな概念や手法を混成させたような新しい表現が見られるという。本展は、そうした世界の美術シーンの動向を、いち早く日本のわれわれに伝える。

画像: エルズワース・ケリー《斜めの黒いレリーフ》2010 年 ESTATE OF ELLSWORTH KELLY, © ELLSWORTH KELLY FOUNDATION, COURTESY MATTHEW MARKS GALLERY

エルズワース・ケリー《斜めの黒いレリーフ》2010 年
ESTATE OF ELLSWORTH KELLY, © ELLSWORTH KELLY FOUNDATION, COURTESY MATTHEW MARKS GALLERY

 参加作家には、ジャコメッティらの影響を受けたエルズワース・ケリー、オーストリアの現代アートの巨匠で、抽象彫刻の制作に注力したフランツ・ヴェストのように、古くから評価されてきたアーティストもいる。

 現存するより若い世代では、トマ・アブツやミハエル・クレバー、スターリング・ルビーなど。トマは2006年に英国の権威ある現代美術のアワードのひとつ、ターナー賞を受賞。ミハエルは、近年、NYの著名なコレクターが作品を購入したことでも知られ、スターリングは、ファッション・デザイナーのラフ・シモンズとコラボレーションした経験も持つ。抽象芸術の新たな盛り上がりを裏づける作家たちだ。

画像: (左から) フランツ・ヴェスト《無題》2011年 ESTATE FRANZ WEST,VIENNA, © ARCHIV FRANZ WEST, © ESTATE FRANZ WEST トマ・アブツ《Tewes》2010 年 COLLECTION OF IGOR DACOSTA, COURTESY THE ARTIST; GREENGRASSI, LONDON, PHOTO: MARCUS LEITH

(左から)
フランツ・ヴェスト《無題》2011年
ESTATE FRANZ WEST,VIENNA, © ARCHIV FRANZ WEST, © ESTATE FRANZ WEST
トマ・アブツ《Tewes》2010 年
COLLECTION OF IGOR DACOSTA, COURTESY THE ARTIST; GREENGRASSI, LONDON, PHOTO: MARCUS LEITH

 では、こうした新しい抽象が現代のアートシーンの主流になったのかといえば、答えは、まだ“NO”。ただ、“すでにメインストリームにあるもの”にはない、ムーブメントの兆しは確かにある。その新しい予感を肌で感じることこそ、現代アートの最高の楽しみ方であるはずだ。 

『抽象世界』
会期:〜8月4日(日)
会場:国立国際美術館
住所:大阪府大阪市北区中之島4-2-55
開館時間:10:00〜17:00(金・土曜は〜20:00、ただし7月・8月の金・土曜は〜21:00)
※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜(祝日の場合は開館、翌日休館)
料金:一般 ¥900、大学生 ¥500、高校生以下無料
電話: 06(6447)4680
公式サイト

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