今回のリストは、音楽界のレジェント細野晴臣デビュー50周年記念展、写真家・篠山紀信の集大成的写真展。そして美術家・杉本博司が手がけた「江之浦測候所」で初めて開催される現代アートのプロジェクト

BY MASANOBU MATSUMOTO

『ティノ・セーガル@江之浦測候所 yet untitled』|江之浦測候所

 現代美術作家、杉本博司が神奈川県・小田原市に手がけた「江之浦測候所」。ここで現代美術家ティノ・セーガルによるアートプロジェクトが行われている。2017年にオープンして以降、ここで古典芸能などのイベントは開かれてきたが、現代アートに関わるものはこれが初めて。

 ティノ・セーガルは、“ライブアート”という表現形式の作品で、近年世界的に注目を集めている作家である。絵画や彫刻のようなモノの制作や展示を行わず、パフォーマー(作家は彼らを“インタープリター”と呼ぶ)を使って、ハプニング的な状況を作り、それを鑑賞者に体験させる。たとえば、《これはプロパガンダ》と題された作品は、鑑賞者が展示ルームに入ると、部屋の隅に立っていた警備員が突然「これはプロパガンダです。知っているでしょ?」と歌い出すもの。男女が美術館の床で絡み合いながらキスをし続けるという作品《キス》も彼の代表シリーズだ。

画像: ティノ・セーガルのライブアートの会場になる「野点席」 © ODAWARA ART FOUNDATION

ティノ・セーガルのライブアートの会場になる「野点席」
© ODAWARA ART FOUNDATION

 この江之浦測候所のライブアートでは、眼前に小田原湾が広がる野点席を舞台に、1〜3名のインタープリターが、下半身を地べたにつけたまま、身体を揺らすように踊ったり、口から喉までを使い“声以前”の不可思議な音をリズミカルに発する。それが、周辺の鳥の声や木々が揺れる姿に絶妙にマッチしていて心地よい。

 ティノ曰く、着想源は、茶道。「数年前にベルリンで茶道を体験し、感銘を受けました。茶室では、人は膝を曲げて動く。それが現代において、どういう意味があるかということから、作品を考えました」と説明する。「その上で、施設内を見て歩き、特に、魅了されたのが野点席。水平線を望む壮大な場所で、お茶を飲む。遠くの自然を眺めながら(お茶を飲むという)体の内側の動きも感じる。その体験のコントラストに惹かれたのです」

 また、ビデオや写真による記録は一切せずに、鑑賞者の記憶にのみ作品を残すのが彼のポリシー。特に、これまでの美術館でのライブアートとは違い、サイトスペシフィックな性質をもつ本作は、いうまでもなく現場で体験すべき価値がある。

画像: 江之浦測候所の「光学硝子舞台」 © ODAWARA ART FOUNDATION

江之浦測候所の「光学硝子舞台」
© ODAWARA ART FOUNDATION

 杉本博司は、この施設のオープンに寄せた“小田原考”で『私は歴史上の「もし」が好きだ』と語っている。じつは、ティノがここで企てたアートワークも、見るものに「もし」を思わせるものでもある。

「この施設は、杉本さんが “未来の遺跡”を夢見て作ったものだと聞きました。自然に圧倒されるぶん、人間の気配のようなものはあまり感じられない場所。そこで私が思ったのは、ここに人の痕跡のようなものを立ち上がらせてみる、ということでした」とティノ。“もしかしたら、このような人たちが、かつて、この場所にいたのかもしれない”ーーそんな想像力を鑑賞者に掻き立てる。その意味で、本作は、杉本とティノのコラボレーション作品でもある。

画像: 施設内には、杉本博司の作品も常設されている 杉本博司《海景》Sea of Japan, Oki 1987 ゼラチン・シルバー・プリント © HIROSHI SUGIMOTO/COURTESY OF GALLERY KOYANAGI

施設内には、杉本博司の作品も常設されている
杉本博司《海景》Sea of Japan, Oki 1987 ゼラチン・シルバー・プリント
© HIROSHI SUGIMOTO/COURTESY OF GALLERY KOYANAGI

『ティノ・セーガル@江之浦測候所 yet untitled』
会期:~11 月4日(月)
会場:小田原文化財団 江之浦測候所
住所:神奈川県小田原市江之浦362-1
開館時間:事前予約・入れ替え制
料金:¥3,000(ネット事前購入)、 ¥3,500(当日)
チケットの購入はこちらから
電話:0465(42)9170
※電話での予約は不可。問い合わせのみ対応
公式サイト

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