漫画家で現代美術家のしりあがり寿。彼はたびたび敬愛する画家として葛飾北斎の名前を挙げ、また北斎を題材にしたアート作品も手がけてきた。その目に、北斎はどう映るのか

BY MASANOBU MATSUMOTO

 東京・国立新美術館で開かれる『古典×現代 2020』展では、この《ちょっと可笑しなほぼ三十六景》を北斎の『冨嶽三十六景』とともに見せる。この展覧会の特徴は、曾我蕭白(そが しょうはく)と横尾忠則、仙厓義梵(せんがい ぎぼん)と菅木志雄、花鳥画と川内倫子など、8人の現代作家と古典の作家あるいは主題をペアにして、それぞれの作品を紹介すること。「古典」と「現代美術」ーー通常の展覧会では、別々の空間で展示されがちなふたつを出合わせ、日本美術の新たな魅力発掘に挑む。しりあがりが肩を並べるのが、いわずもなが北斎だ。

 この展覧会で、しりあがりは新しい映像作品を披露する。2014年、フランス・パリにあるグラン・パレで北斎の回顧展『HOKUSAI』が開かれた際にも、しりあがりは北斎を主題にしたアニメーション作品《Voyage de HOKUSAI(北斎の旅)》を出展しているが、その最新版だ。

「フランスで公開した作品は、90歳で天寿をまっとうするまでずっと絵を描き続けた北斎の人生、また常にもっと絵が上手くなりたいと願った北斎のメンタリティをテーマにしました。今回の主題のひとつは、北斎が描いた絵のバリエーションの幅広さについて、です」

画像: 葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》 江戸時代・19世紀 大判錦絵 25.9×38.1cm 和泉市久保惣記念美術館

葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》
江戸時代・19世紀 大判錦絵 25.9×38.1cm 和泉市久保惣記念美術館

画像: しりあがり寿《ちょっと可笑しなほぼ三十六景 髭剃り富士》 2017年 和紙にインクジェットプリント 32.0×47.0cm 作家蔵 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE NATIONAL ART CENTER,TOKYO

しりあがり寿《ちょっと可笑しなほぼ三十六景 髭剃り富士》 
2017年 和紙にインクジェットプリント 32.0×47.0cm 作家蔵
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE NATIONAL ART CENTER,TOKYO

 タイトルは《天地創造 from 四畳半》。これまでしりあがりの作品に登場してきたキャラクター“おやじ”風の北斎が登場し、踊りながら手に持った筆をふり回す。その筆の軌跡から、北斎がこれまでに描いた絵の断片が溢れ出てくる。海中を泳ぐ魚、草花、雨の中を走る旅人、妖怪、大浪、赤富士ーー。「小さい生き物から大きい自然まで、見えるもの、想像できるものすべてに北斎は好奇心を注いで絵で表したんです。ただお金と名誉には縁がなく、長屋の狭い四畳半の部屋で布団にくるまって寒さを凌ぎながら筆を持った。だから、北斎はいわば、四畳半から森羅万象を絵にした男。天と地、海と山、動物や植物、人間ーー天地創造を描いた絵師だと僕は思うんです」

 そして「もし今生きていたら、iPadなどでさらさらと漫画を描いていたのかな?……ちょっと会ってみたいな」とぽつり。“ちょっと”でいいのですか?と問うと「きっと実際に会ったら、嫌な奴だと思うから」と言い、笑った。「弟子もそんなにとってないし、北斎はきっと人付き合いが下手なタイプだったはず。人と会う時間があったら、絵を描くことに費やしたいと言われそう。僕なんか、漫画や絵を描いている最中でも、友人から誘いがあれば、お酒を飲みに行っちゃいます(笑)。そういう意味では、僕は絶対に北斎にはなれない。さっき、“北斎が『冨嶽三十六景』を制作したのは70歳を過ぎてからだから、62歳の僕にもまだ可能性がある”みたいなことを言ったけど、かなりの確率で、『冨嶽三十六景』に匹敵するものは描けないと思う。真似してみても、絶対にこの人にはなれないーーだから、僕は北斎に憧れているんだと思います」

画像: しりあがり寿(SHIRIAGARI KOTOBUKI) 1958年静岡市生まれ。85年単行本『エレキな春』で漫画家としてデビュー。以降、ギャグから社会派まで幅広いジャンルの漫画作品を発表。近年は現代アートのシーンでも活躍。2014年、紫綬褒章受章 www.saruhage.com © SHIRIAGARI KOTOBUKI

しりあがり寿(SHIRIAGARI KOTOBUKI)
1958年静岡市生まれ。85年単行本『エレキな春』で漫画家としてデビュー。以降、ギャグから社会派まで幅広いジャンルの漫画作品を発表。近年は現代アートのシーンでも活躍。2014年、紫綬褒章受章
www.saruhage.com
© SHIRIAGARI KOTOBUKI

※ 新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡散防止のため臨時休館中。詳細は展覧会サイトにてご確認ください。またこちらのページでは、開催に先立って作品の展示風景および作家へのインタビュー動画を公開中です。

『古典×現代 2020 時空を超える日本のアート』
会期:6月24日(水)~8月24日(月)
※ 作品は展示替えの可能性があります。
会場:国立新美術館 企画展示室2E
住所:東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00〜18:00 (金・土曜は20:00まで)
※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜 ※ただし、5月5日は開館、5月7日(木)は休館
観覧料:一般 ¥1,700、大学生 ¥1,100、高校生 ¥700、中学生以下は無料
電話:03(5777)8600(ハローダイヤル)
展覧会サイト

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