BY MASANOBU MATSUMOTO
『アニッシュ・カプーア:Selected works 2015-2022』|SCAI PIRAMIDE
アニッシュ・カプーアは、人間の知覚や空間に直接的に働きかけるような作品で世界的に高い評価を獲得している作家だ。よく知られているのは、表面を塗装したステンレス製の器のようなオブジェ。作品の中心に向かって近づいていくと、表面に映り込んだ自身や周囲が湾曲にあわせてゆがんで見えたり、反転して見えたりと、不思議なイメージ体験が得られる。立体的なフォルムを有しているという意味では彫刻的だが、表面に反射する光景を見るという意味では絵画的。人の認知作用や光学的な原理、また新しい素材を応用したエンジニアリング的な要素も彼の作品の魅力だ。
六本木のSCAI PIRAMIDEで始まった個展では、新作を含む選りすぐり作品を鑑賞できる。先述の器のようなオブジェや、より彫刻らしい有機的なフォルムで象られたシリーズ、また、カプーアが追求してきた“VOID(空虚)”という概念を思わせる、“奥行き”を感じさせない黒い彫刻のインスタレーションなど、彼の創作における主要な関心がうかがえるラインナップだ。現在イタリア・ヴェニスでも大規模な回顧展が開催され、改めて注目を集めているカプーア。その近年の芸術的実践を見通せる貴重な展覧会だろう。
『アニッシュ・カプーア:Selected works 2015-2022』
会期:〜7月9日(土)
会場:SCAI PIRAMIDE
住所:東京都港区六本木6-6-9ピラミデビル3F
開廊時間:12:00〜18:00
休廊日:日・月曜、祝日
入場料:無料
電話:03(6447)4817
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『ラシード・ジョンソン ― Plateaus』|エスパス ルイ・ヴィトン東京
ラシード・ジョンソンは、1977年アメリカ・シカゴ生まれの美術家。いま最も影響力のあるアフリカ系アメリカンのアーティストと称される人物でもある。キャリアの転機になったのは、シカゴの黒人ホームレスを絵画的に撮影した写真シリーズ「Seeing in the Dark」。この作品が広く議論を呼び、「ポスト・ブラック」(「黒人アーティスト」というラベリングを拒み、自身たちの複雑なアイデンティティの再定義を要求するクリエイターたち)と呼ばれるポスト公民権運動世代の一翼を担う人物として注目を集めた。近年は、ドローイングやパフォーマンス、映像など多様な作品を発表し、また映画『ネイティブ・サン~アメリカの息子~』の監督も務めている。
本展で紹介されるのは、日本初公開となるインスタレーション作品《Plateaus(プラトー)》。植物、シアバター、陶器、さらには書籍『ネイティブ・サン』や作家が幼少期から親しんだラジオなどファウンド・オブジェクトで構成された作品で、ジョンソン曰く「私が用いる素材にはどれも実用的な用途があります。(中略)狙いは、すべての素材が『異種混交』して、私を著者とする新たな言語へとなることです。骨組みは、この異種混交のためのプラットフォーム」。自然なるものと人工物、大きな歴史と作家の個人史、アフリカ起源の伝統的なものと現代化されたものーーそれらがパズルのように組み合わされて浮かび上がるイメージは、ジョンソンの思う複雑な多様性をシンボライズしているようだ。
『Transformation 越境から生まれるアート』|アーティゾン美術館
美術にまつわる人やもの、情報が国や大陸を越えて行き交うようになった19世紀半ば以降、芸術家たちは、国際化による多様な影響関係のなかに身を置きながら、どのように自身の創造性とオリジナリティを追求していったのかーー。本展は、特に4人の画家にフォーカスし、「越境」を切り口に、地政学的な視点から近・現代美術を再考する企画展だ。
4人の画家とは、フランス国内外の古典美術を研究し、自身の理想とする絵画を追い求めたルノワール、明治期にフランスとイタリアに留学し、独自の絵画世界を開拓した洋画家、藤島武二、画業初期、同時代のフランス美術に影響を受けたスイス生まれの画家パウル・クレー、そして第二次大戦直後にパリに移った中国出身の画家ザオ・ウーキー。彼らと親交のあった作家、また影響を与えあった作家の作品にも触れる。約80点の作品と資料により、それぞれ「越境」し、異質な存在との接触や対話を契機に自らの芸術を刷新していったアーティストたちの創作態度をつまびらかにする。
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