BTSのリーダーRMの新たな情熱
ーー母国のアートを支援する

RM, Boy Band Superstar, Embraces New Role: Art Patron
BTSのリーダーRMは、母国・韓国のファインアート史における正統的な芸術家たちを熱心に擁護している。彼らの作品を学び、購入し、ときどき話しかける。RMは言うーー「作品たちが僕を見ているような気がするんです」

BY ANDREW RUSSETH, PHOTOGRAPHS BY DASOM HAN, TRANSLATED BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: 韓国のポップグループBTSのリーダー、RM。パク・スグン、ウーゴ・ロンディノーネ、ユン・ヒョングン、チャン・ウッチンの作品を含むアートコレクションが飾られているソウルの彼自身のレコーディングスタジオにて

韓国のポップグループBTSのリーダー、RM。パク・スグン、ウーゴ・ロンディノーネ、ユン・ヒョングン、チャン・ウッチンの作品を含むアートコレクションが飾られているソウルの彼自身のレコーディングスタジオにて

 ソウルーー韓国のポップグループBTSのリーダー、RMが初めてマンハッタンのグランド・セントラル駅を訪れたのは、ジミー・ファロンのトーク番組『Tonight Show』に出演するためだった。コロナウイルスによるロックダウン前の2020年はじめのことで、BTSの7人のメンバーは、真夜中、大勢のダンスクルーを引き連れて、誰もいない駅の大ホールでシングル「ON」を熱唱したのである。

 昨年末、RMは、今度はパフォーマーではなく一般人としてふたたびグランド・セントラルを訪れた。先日の午後、BTSの所属レーベルを傘下にもつ芸能事務所HYBEのソウル本社でインタビューした際、「2回目のグランド・セントラルは、人が多くて不思議な感じでした」と私に話してくれた。「今回は、鉄道のチケットを購入するため、観光客として友人と一緒に行ったんです」。そこからメトロノース鉄道に飛び乗って彼らが向かったのは、ハドソンバレーにあるミニマル・アートの桃源郷「Dia Beacon」だ。「まさにユートピアでした」とRM。その美術館には、RMが敬愛する芸術家・河原温に捧げられた一室がある。河原は、暗い地色に白い文字で制作年月日を記したミニマルな絵を制作し、キャリアを積んだ画家だ。

 27歳になるRMはここ数年、アートコレクションを増やし、また自身のアートスペースを開くことを考えている。その一環として彼は、さまざまな場所へアートの旅に出かけており、Dia Beaconはその直近の目的地だった。BTSの熱狂的なファン(自称「ARMY」)は、RMのソーシャルメディアへの投稿や報道をチェックし、彼を追いかけ、彼が訪れた場所の来場者数を増やす。歌手でありラッパーである彼が、一般大衆にとってアートをより身近なものにしているとは、ベテランのアートディーラー、パク・キョンミの見解だ。ソウルにあるキョンミのギャラリー「PKM」でのインタビューで、彼女は「ギャラリーや美術館といったアート機関と若者の間にあった壁のようなものを、彼は取り払ってくれるのです」と話してくれた。

画像: 2018年、ニューヨークのクイーンズにあるスタジアム「シティ・フィールド」で開かれたコンサート PHOTOGRAPH BY NINA WESTERVELT

2018年、ニューヨークのクイーンズにあるスタジアム「シティ・フィールド」で開かれたコンサート
PHOTOGRAPH BY NINA WESTERVELT

 RMはアートの支援にも乗り出している。5月までソウル市立美術館で開催されていた韓国人アーティスト、クォン・ジンギュの回顧展のために、彼は(自身のコレクションから)テラコッタ製の馬の彫刻を貸し出し、2020年には絶版になった美術書を再版して図書館に配布するために、国立近現代美術館(MMCA)に1億ウォン(当時の約84000ドル)を寄付。その後、政府関連の機関である韓国アーツカウンシルから「アートスポンサー・オブ・ザ・イヤー」に選定された。MMCAのユン・ボンモ館長はメールにこう記した。「世界的に大きな影響力を持つRM氏が美術愛好家であることを大変うれしく思います」

 その世界規模の影響力には、底知れぬものがある。BTSのYouTubeチャンネルは7000万人以上の登録者数を誇り(これ以上の登録者をもつアーティストはK-POPのBLACKPINKだけ)、RM個人のInstagramには3700万人のフォロワーがいる(MMCAのものは20万人)。この夏、彼がスイスのアートバーゼルを訪れた際に記録した35分のVlogは、600万回以上も再生されている。偏狭で閉鎖的なこの世界にとって、彼は夢の大使なのかもしれない。

画像1: BTSのリーダーRMの新たな情熱
ーー母国のアートを支援する

 特筆すべきは、彼のビジュアルアートへの情熱が、本人曰く「予想外の発見、予期せぬ出会い」によって湧きおこったものであるということだろう。本名は、キム・ナムジュン(彼は2017年に「Rap Monster」からRMへとステージネームを正式に改名した)。ソウル近郊で育った。「両親は美術館に連れて行ってくれましたが、僕自身、当時はそれほどアートを楽しんでいたわけではありませんでした」とRMは言う。きっかけは2018年のツアー中だった。ホテルの部屋で休演日に何をするか決めようとしていたRMは、思い切ってシカゴ美術館に行くことにした。そこで出会ったスーラとモネの絵画に彼はすっかり魅了されてしまったのだった。「スタンダール症候群のような感じでした」とRM。このスタンダール症候群とは、アート作品が見る人にふらつきや心拍数の上昇といった身体的症状を誘発することを指す。複製品として知っていた作品だったが、その実物を見たときの衝撃は大きかったという。「もう、“すごいな”って感じ。それらの作品をずっと見つめ続けました。それは本当に素晴らしい体験でした」

 いつもアートの話になると、ただでさえエネルギッシュなミュージシャンは、特にテンションが上がる。通訳もいたが、彼はたいてい英語で話してくれた(彼の英語はとても流暢で、『フレンズ』を見て英会話を学んだのだという)。「17歳のとき、勉強することをやめてしまったんです。BTSのこともあり、練習生だったので」と、その練習内容をすべて挙げながら話してくれた。「ただ、その10年後、アートと出会って、また本を読むようになりました。真剣に」。カリスマ性があり、勉強熱心な彼を見ると、有能な政治家、あるいは愛すべき少し風変わりな教授になることを想像させる。

画像: RMのレコーディングスタジオ。左はユン・ヒョングンの作品、右は李氏朝鮮時代の書家、キム・ジョンヒの作品

RMのレコーディングスタジオ。左はユン・ヒョングンの作品、右は李氏朝鮮時代の書家、キム・ジョンヒの作品

画像: (左)KAWSの「コンパニオン」 (右)写真の上に写るのは、RMが所蔵するベアブリックのコレクターズピース

(左)KAWSの「コンパニオン」
(右)写真の上に写るのは、RMが所蔵するベアブリックのコレクターズピース

 幼い頃から、切手やコイン、ポケモンカード、希少石(「高価なものではないですが」とRMは言う)、そしておもちゃのフィギュアを集めていた。HYBE内にある、アート作品でいっぱいの彼のレコーディングスタジオには、KAWSの大きな「コンパニオン」も置かれているが、彼のアートコレクションのほとんどは古い作品だ。彼の作業用のコンピュータ・ワークステーションはジョージ・ナカシマのテーブルの上に置かれ、その背後にはユン・ヒョングンの抽象画(3つの塗料を滲ませて描いた作品)。壁に掛けられた20点以上の作品は、その多くがパク・スグン、チャン・ウッチン、ナムジュン・パイクといった20世紀を代表する韓国人アーティストのものだ。

 海外ツアーを回る中で、RMが強く認識したのは、「僕のルーツは韓国だ」ということだったという。そして、自国の、特に朝鮮戦争、軍事独裁政権、経済が不安定だった時代のなかを生きた世代を中心に作品を収集している。これらのアーティストたちは、韓国国外ではまだあまり知られていない(他のアイドルは、知名度の高い一流のアーティストを好むと、ディーラーは言っていた)。RMは「作品から、彼らの汗と血のようなものを僕は感じるんです」と言い、「自らの作品を世に出そうとしていた人間」として彼らを理解している。

画像2: BTSのリーダーRMの新たな情熱
ーー母国のアートを支援する

 BTSのリーダーは、古風な心の持ち主であることがわかる。彼の好みを明確にしようと尋ねたところ、「K-POP業界は、スピードが速く、慌ただしい雰囲気があるので、永遠をテーマにしたアートに惹かれます」と語った。過去のアートに関心を寄せるが、より新しいアートも学ぼうとしている(彼のソロミュージックは、それとは全く正反対で、最新かつ実験的でさえある)。彼は、新進気鋭のギャラリスト、ドゥヨン・ロがオーガナイズするスペース「N/A」で、この夏に行われた展覧会を投稿したが、ロは、彼の写真を見て、その作品をこのスターが購入したのだと思い込んでいる人もいるだろうと話す。実際は、そうではないようだ。そのRMの投稿は、スペースの場所を特定しなかったにも関わらず来場者を集め、また常に勤勉な彼のファン「ARMY」は(「N/A」とは異なる)ロ自身のスペース「Cylinder」のInstagramのアカウントまで見つけ出した。ロは言う。「彼らはいったいどうやって、これを見つけたのでしょうか?」

画像: 上段はソ・スンウォン、村上隆の作品、中段はキム・チョンハク、ウーゴ・ロンディノーネ、ユン・ヒョングン、下段右はパク・スグンの作品

上段はソ・スンウォン、村上隆の作品、中段はキム・チョンハク、ウーゴ・ロンディノーネ、ユン・ヒョングン、下段右はパク・スグンの作品

 今は亡き偉人たちの作品に囲まれながら、RMは「彼らに見られているような気もします」と口にした。「作品が僕にモチベーションを与えてくれるんです。作品からのオーラを感じて、もっといい人間になろう、もっといい大人になろうと思うんです」。疲れているとき、落ち込んだときは「その前に立って、会話することもあります」と言う。ユンの絵の前に立って、「ユンさん、うまく行きますよね?」と聞くのだろう。

 RMがいま考えているのは、自分の将来についてのことだ。兵役も控えている(BTSのメンバーは現在、ソロプロジェクトに時間を費やしているが、所属レーベルはBTSが活動休止中でないことを強調している)。数ヶ月前、RMはアートバーゼルのポッドキャストで、そのグローバルディレクターであるマーク・シュピーグレルに「アートスペースのようなものをオープンしようと考えている」と話していた。私にも、ベルギー人のデザイナーでアンティーク収集家、ギャラリストであるアクセル・フェルヴォルト(RMの音楽のインスピレーションソースのひとり、カニエ・ウェストのお気に入りでもある)の名前を挙げて、「本当に静かで落ち着く、でもアクセルみたいにかっこいい空間にしたい」と話してくれた。

 そのスペースはまだ先のことだが、RMは、1階はカフェ、その上の展示スペースで韓国と海外のアーティストの展覧会を開き、若い人たちにアピールしたいと考えている。「アート業界のアウトサイダーとして提案できることがあると思います」

画像: 「アート業界のアウトサイダーとして提案できるものがあると思います」とRM

「アート業界のアウトサイダーとして提案できるものがあると思います」とRM

 しかし、彼が自身をアウトサイダーだと言えるのも、それほど長くはないだろう。最近、彼はロニ・ホーンの円柱型のガラスの彫刻(光を分散し半透明の白色をしている)をコレクションに加え、アートのエキスパートとして認められつつある。ソウルの権威あるディーラーであるパク・キョンミ は、自分のギャラリーのアーカイブにもない、ユン・ヒョングンに関する文献をRMが見つけていたことを教えてくれた。(彼女はユンの遺族の代理人であり、RMと出会う数年前に「ARMY」になった。「最初はYouTubeで彼らのことを勉強するようになって。コンテンツが多いから、熟知するまでには本当に長い長い時間が必要ですが」と彼女は言う)

 RMが語ってくれたように、ユンは悲痛な人生をおくった。政治的な理由で4度も投獄され、1度は辛うじて処刑を免れた。40代になると、リネンやキャンバスに墨汁を希釈したような琥珀色とブルーの絵の具を帯状に塗り広げた、瞑想的な絵を描くようになった。「その作品は、西洋と東洋、あるいはアジアや韓国の様式を完全に融合させたよう」とRMは言う。

 彼の作品の中で、特に好きな年代の作品はありますか? ーーそう聞くと「はじめは、彼の70年代の彼の作品、ペインティングがとても好きでした。でも今は彼、彼の世界、彼の作品に夢中で、すべてが好き。もう客観的ではいられません」とRM。「それがファンというものです」

*この記事は2022年8月24日にニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたものです。

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