BY MICHINO OGURA
ドイツのカッセル市で5年に一度開催され、世界的に注目を集める芸術祭「ドクメンタ」に日本人として初めて招聘されたアーティストの栗林隆。2022年の「ドクメンタ15」に「Cinema Caravan and Takashi Kuribayashi」として参加した際に発表し、話題となったのが『元気炉四号機』という作品だ。このたび、AOMORI GOKAN アートフェス2024のクロージングとして新たなインスタレーションを公開した。
蒸気を発する煙突を中心に、ぐるりとドーム型の構造物が取り囲む。その様子はまさに原子炉の形状のよう。栗林は2011年の東日本大震災が起きた翌年から、福島第一原子力発電所の本当の状況を知りたいと、フォトグラファーの友人と共に毎年通っている。その経験から栗林が作品に込めたものは、実は前向きで鮮やかな発想の転換だった。
「アーティスト気質なのか、現地に足を運んで見てみたいと思ったんです。福島に通いながら、原子力発電や放射能についても調べて映像作品などを制作していました。5年ぐらい通ううちに、福島に暮らす方々と知り合うようになり、逆に僕たちが励まされて元気をもらうような体験を重ねていきました。原発に対して、白か黒かを問うことが問題なのではなく、もっと違う形で昇華できないかと考えたところ『元気炉四号機』のコンセプトが生まれたんです」。
今回発表された《元気炉》はドクメンタで発表した『元気炉四号機』をもとにしている。観客は実際に建造物の中に入り、薬草の香りの蒸気を感じることができる。
「若い時にダイビングのインストラクターをしていた時期があったんですが、その頃にタイの海によく行っていました。タイでは体調が悪くなるたびに、薬草のスチームサウナで癒されていたんです。この仕組みを導入して、原子炉ではなく、“元気炉”と呼んでみたらどうだろうと思いました。僕らはアーティストとして、福島の事故をどのように捉えればいいかということを常に考え続けてきました。アートとして昇華したり、ジョークのように呼んでみることで、グレーでもいいと思えることもあるんじゃないでしょうか。“ビヨンド原子炉”ではないですが、原子炉が廃炉したあとに、こういう人を元気にできる作品があったらいいんじゃないかと思って、いまプロジェクトをあたためているところです」
“境界”をテーマとした作品を発表し続ける栗林。この作品に対しては、“境界”を可視化するよりも、見えないことについて考える機会になったという。
「最初は“境界”を意識していたのですが、実際に作ってみると、境界線=ボーダーって見えないこともあるのだと思いました。放射能もそうですし、このプロジェクトの途中で新型コロナウイルス感染症もありました。人って、見えないものに対してすごく恐怖を感じるんです。ボーダーをあえて見えないようにすることや、目に見えないエネルギーについてなど、僕の中のテーマも変わってきているんですよね」
《元気炉》は釜で炊いた薬草のスチームを建物の中に送り込むという仕組み。室内に入ると、びわの葉やレモングラスなどの薬草が配合された柔らかい蒸気に包まれ、サウナのようにじっくりと体の芯から温まることができる。設置する土地のものをなるべく取り入れようと、現地では釜から蒸気とともにできたハーブティーもふるまっていた。
本アートフェスのテーマでもある「つらなりのはらっぱ」に寄り添い、各会場へ毎週末キャラバンのように出現する作品。青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森、八戸市美術館でのイベントは終了し、次は十和田市現代美術館、弘前れんが倉庫美術館へと続く。地元の音楽家たちとのセッションやフード&ドリンクの出店も楽しめる。閉幕まであと少しなので、ぜひ、この機会に足を運んでみて欲しい。
栗林隆《元気炉》「Aomori GENKI-RO Trip」巡回情報
日程:8月24日(土)・25日(日)
会場:十和田市現代美術館 前庭
住所:青森県十和田市西二番町10-9
時間:作品稼働は24日(土)17時〜19時
入場料:参加無料
日程:8月28日(水)〜9月1日(日)
会場:土淵川吉野町緑地(弘前れんが倉庫美術館前)
住所:青森県弘前市吉野町2-7
時間:作品稼働は8月30日(金)〜9月1日(日)17時〜20時
30日、31日は夜間開館(※19時閉館)
入場料:参加無料
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