BY KANAE HASEGAWA
2020年6月、資生堂から誕生した「BAUM(バウム)」は、“樹木との共生”をテーマに掲げた、スキン&マインドケアブランドだ。製品には90%以上の自然素材が用いられ、“樹木の恵み”をスキンケアに取り入れるというコンセプトは、まさにそのブランド名が体現する。フェイスウォッシュ、ローション、オイル、エマルジョンなどのベーシックなスキンケアアイテムと、深い森の空気に包みこまれたかのような香りで満たしてくれるルームスプレーやオーデコロンなどのリラクゼーションアイテムの全27品が揃う。
今年の4月以降、レジ袋の有料化やごみ分別のさらなる細分化など、環境の改善を意識する様々な試みは日常に浸透しつつある。これまで当たり前であった石油由来の使い捨てプラスチック容器に入った化粧品を、毎日のスキンケアで消費し続けることに改善の余地があったとしたら―― すでにレフィル(詰め替え品)の提供などの取り組みをおこなっている企業は多い。このたびBAUMが目指した“サスティナビリティ”とは、どんなことなのだろうか? BAUM グローバルブランドマネージャー、西脇文美さんに話を伺った。
「これからの物づくりにおいて、“エシカル”、“サスティナブル”な製品を提供するという試みは、グローバルな潮流からみても、企業として当然考慮すべき課題です。今回、資生堂として初めて、サスティナビリティを中核思想に据えた、プレステージブランドを立ち上げるために、私たちは何度も議論を重ねました。ブランドを通して伝えたいメッセージを探っていくうちに、『循環』というキーワードにたどり着きました。そして、その『循環』を象徴するものとして、『樹木』に着目したのです。建築などに代表されるように、日本人は、昔から樹木の恩恵を受けながら樹木と共生し、その資源を絶やさずに今に繋いできた歴史があります。樹木は循環思想をわかりやすく体現するモチーフとなると考えました」
「また、ハーブや花などの植物成分を活かしたスキンケアアイテムはたくさんありますが、草花に比べて、樹木ははるかに長寿の生命体で、何百年も生き続ける中、太陽の光を成長につなげ(成長力)、自ら貯水し(貯水力)、過酷な環境の変化に適応し、身を護る(環境防御力)という働きを備えています。こうした樹木の生命力は、スキンケアに必要とされる概念と親和性が高いだけではなく、ブランドとして目指したいイメージとマッチしたのです。そして、こういったコンセプトに共感してくださるクリエイターや協力会社の方たちと製品を作っていきたいと考えました」
BAUMは、資生堂の皮膚科学研究における知見を活かしながら、スキンケアのみならず、安らぎやリラックスといったマインドケアにも取り組む。「近頃は特に、肌への効果感だけではなく、毎日使うものだからこそ、心にも暮らしの中にも豊かさや安らぎをもたらすものを求める方が増えていると感じています。成分がナチュラルであるということにとどまらず、世の中にも貢献できるビューティブランドとして、そうした方たちのニーズに応えられるものを提供したい」と、西脇さんは思いを語る。たとえば、お気に入りのインテリアのように、いつも見えるところに置いておきたくなるようなもの。手に取ったときの手触りの心地よさ。五感を満たすためのこだわりは、ボトルのデザインにも反映されている。
BAUMの製品を見て、まず心惹きつけられるのは容器(パッケージ)のデザインだろう。スキンケアアイテムでは、ほとんど目にしたことがない本物の“木“が用いられている。樹脂のボトルが 木製パーツに嵌めこんであり、使い終わったら、付け替え用の樹脂ボトル(レフィル)を買い替え、また 木製パーツに嵌めれば、長く使い続けることができる。その姿は化粧品らしからぬ、小さな家具を思わせる。それもそのはず、80年におよぶ歴史をもつ木製家具メーカー「カリモク家具」が、容器の木の部分を作っているのだ。加えて、そのパーツは新たに木を切り出すわけではなく、カリモクの家具づくりの工程でどうしても出てしまう端材を再生利用している。“樹木との共生”、まさにその言葉どおりに、資源の“循環”を体現した容器と言えるだろう。