70年以上前、デザイナーのオズヴァルド・ボルサーニは、ミラノ郊外に家族のための邸宅を建てた。それは、ひとつの時代の枠にとらわれないデザインだった。そして今、その建物は、イタリアのモダニズム・デザインがたどってきた山あり谷ありの道筋と、その底力を物語る生きた証しとして存在している

BY NANCY HASS, PHOTOGRAPHS BY MIKAEL OLSSON, TRANSLATED BY HARU HODAKA

 オズヴァルドの死後、ヴァレリアとマルコがテクノ社のデザイン部門を統括したが、財務を任されていたフルジェンツィオが1991年に亡くなると、一家は争い事なしにその財産をふたつに分割した。ファントーニ一家が過去から現在までの家具デザインの権利を得て、フルジェンツィオの後継者たちがテクノ社の権利を保有した(フルジェンツィオの孫にあたるフェデリコ・ボルサーニが、現在も取締役を務めている)。バレドにあった工場は2000年代の初めにアパートメントに建て替えられたが、一族はヴィラ・ボルサーニを創造者が意図した形のまま残そうと一致団結した。邸宅には時折、親戚が泊まりに来るぐらいで、室内にはいまだにオズヴァルド作品の膨大なアーカイブが残されており、その中には建築家だった彼が、水彩画として描いた、何千点にも及ぶインテリアや製品の完成予想図もある。

 邸宅そのものは、古典主義とモダニズム主義の要素が融合したもので、アール・デコとバロック様式が混ざった雰囲気だ。斧で木を切った味をそのまま残したような洗練された細部の装飾があったり、オズヴァルド自身の美意識と、20世紀のイタリアのデザインが、それぞれ進化してきた過程をたどれるような歴史的なオマージュに満ちている。いくつもの箱が結合したような家の外観は、厳格な雰囲気の中にも気品をたたえ、薄いベージュとピンクの漆喰が年月に晒さらされてやさしく色あせている。入り口は、蔦と藤が絡まった棚のつくる日陰の中にあり、中庭は四隅に配された石柱で仕切られている。家の中に入ると、天井は高いが、部屋自体はさほど大きくはない。そんな縦長の空間は、1940年代のヨーロッパのモダニズム主義者たちが好んだ低めの天井や横にどこまでも広がる空間構造よりも、19世紀初頭の時代をよほど強く想起させてくれる。

画像: 廊下からキッチンに通じる人造大理石の床

廊下からキッチンに通じる人造大理石の床

オズヴァルドは床にほんのわずかな段差を施し、少しだけ上がったり、下がったりするしかけを通して、住む人が親密さを感じられるようにデザインした。ふんだんに使われた豪華な建築資材と、直角のアングルにより制約されたこのヴィラを眺めていると、オーストリアの建築家、アドルフ・ロースが20世紀初頭に手がけたムーディな建築物を思い起こす(訳註:ロースはモダニズムの先駆的な作品と、装飾は罪悪であるという主張で知られる)。知的で冒険心に富む作品だが、身体に強く訴えかけてくる何かがあるのだ。

 だが、チェコのプルゼニのベンドヴァ通り10番地にある保存状態のいいアパートメントや、プラハのヴィラ・ミュラーのような陰影を強調したロースの作品とは違い、オズヴァルドの建物は淡いパステルカラーで覆われ、陽の光に晒されている。建物の中に入ると、まず最初に目に飛び込んでくるのが、えんじ色とピンクの波型の模様がオプアート風に描かれた大理石の床と、その向こうにある、L字型が重なるようにして2階に伸びる、オープンタイプの階段だ。ちなみに、この大理石の波型模様は、シエナで年2回開催されるパリオ(鞍なしの騾馬に乗って競走するレース)に参加するチームの、シンボル記章のデザインをもとにしたものだ。オズヴァルドは、階段部分にはミラノの大聖堂に使われたのと同じ、落ち着いたピンク色のカンドグリアの大理石を使用し、コブラのようにうねうねと曲がった手すりには、磨き抜かれたくるみの木材を使った。階段の手すりの下の仕切りは透明なムラーノ製ガラスで、ガラスは銅製の留め金で階段部分に固定されている。この留め金を使うアイデアは、オズヴァルドが20年後に製作した「P110」カナダ・ラウンジ・チェアの構造にもそのまま応用され、ハイテク化の波に乗って、家具の工業化が本格的に花開くきっかけになった。階段の後ろの壁一面に広がる窓からは裏庭が見え、全体的に透明感あふれる、繊細な空間になっている。

画像: 中央エントランスに置かれたアジェノーレ・ファブリ制作の銅像。カンドグリアの大理石でできた階段が、宙に浮いているようでドラマティックだ。手前の床の模様は、シエナのパリオからヒントを得た

中央エントランスに置かれたアジェノーレ・ファブリ制作の銅像。カンドグリアの大理石でできた階段が、宙に浮いているようでドラマティックだ。手前の床の模様は、シエナのパリオからヒントを得た

画像: 1階のスタジオ。暖炉のそばには、オズヴァルドがデザインした椅子とサイドテーブルが

1階のスタジオ。暖炉のそばには、オズヴァルドがデザインした椅子とサイドテーブルが

 

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