BY AKIKO INAMO, PHOTOGRAPHS BY AYUMU YOSHIDA
編集者の安藤夏樹が北海道の木彫り熊に出合ったのは、数年前のこと。安藤は言う。「ある古道具屋の片隅で、木彫り熊を見つけたんです。それまで知っていた、鮭をくわえた北海道の木彫り熊とは全然違っていて、カッコよかった。店主から、それは八雲という町で作られたものだと教えられました」。
大正時代、尾張徳川家がスイスから持ち込んだ木彫り熊を、八雲の農民たちが土産物として彫り始めたそう。その歴史の面白さにも興味を惹かれ、以来、八雲を中心に北海道のさまざまな木彫り熊を集めること、約200点。「熊の素敵さをみんなに伝えたくて。<東京903会>を発足しました」と言う安藤は、8月、渾身のコレクションを紹介する展示会を東京・目黒で開催した。
同時に、満を持して著書『熊彫図鑑』を出版。「八雲で戦前・戦後に彫られた約220点の作品を掲載し、作家の人となりがわかる、ご遺族の貴重なインタビューも収録しています」。ページをめくれば、新しい世界が開けるはず。
「北欧デザインのようなモダンな佇まい。加藤は戦後の八雲で活躍した作家のひとりで、この作品のような面彫りと、流麗な毛流れを表現した毛彫りが特徴。自らを『熊大工』と呼んでいたそうです」

加藤貞夫作/銘《かとう》・昭和54年
「76歳から彫り始めた鈴木の熊は、丸っこいフォルムが特徴。かつて酪農の傍ら熊撃ちをしていたため、その熊の供養を兼ねて彫ったそうです。いわゆる、“素朴派”」

鈴木吉次作/銘《す》・昭和53年