BY EMI ARITA
ル・コルビュジエをはじめ20世紀を代表する名匠たちの家具が揃い、イタリアンモダンを象徴するようなアバンギャルドな世界観を体現したブランド……カッシーナと聞くと、そんなイメージを抱く人も多いだろうが、今のカッシーナはどうも違った印象だ。
青山通りに面したビルの1階から3階までの店舗のうち、今回1、2階を大幅に新装したカッシーナ・イクスシーの旗艦店である青山本店の店内は、たくさんの色がちりばめられ、明るく開放的でとても心地がいい。ふらっと店内をまわれば、あらゆる暮らしのイメージがふつふつと湧き上がってくる。
「ここを訪れた人にエネルギーを渡す場所にしたい。そんな思いでディレクションしました」と語るのは、本国イタリアにあるカッシーナのショールームのディレクションも務めるアート・ディレクター、パトリシア・ウルキオラだ。
「カッシーナ・イクスシー青山本店には何度か訪れているのですが、ここにはもう少しエネルギーが必要だと感じていました。今回改装した1、2階には、リビング、ダイニング、寝室と様々なライフスタイルを想定したスタイリングを展示していますが、そのすべてに色のコントラストを楽しめるような遊び心をちりばめて、本国イタリアのショールームにかなり近い印象に仕上がっています。
インテリアに色を入れるのが苦手な方もいるかもしれませんが、ここで提案しているスタイリングは、グレーや白、黒といったスタンダートな色をベースに、少しだけ色を挿すようにしています。やっぱり色があると、エネルギーがもらえるでしょ。それに、こういう色と色の組み合わせは、ゲームみたいなもので、みなさんファッションだとそういうのが上手ですよね。たとえば黒い服に赤いバッグをあわせたり、ゴールドのイヤリングをつけたり。インテリアでもそうやってベーシックな中に、ちょっとした遊び心=スパイスを加える感覚です」
その想いを情熱的に語り、自身からも溢れんばかりのエネルギーを放つウルキオラは、スペイン・オビエド出身。マドリード工科大学、ミラノ工科大学で建築を学び、現在、第一線で活躍する世界的な建築家・デザイナーだ。建築に携わる仕事をしていた家族や親戚に囲まれて育ったことから、子供の頃から建築家を目指してきたそうだが、デザイナーとしてキャリアをスタートすることになったのは、イタリア工業デザインのパイオニア的存在であるアッキレ・カスティリオーニとの出会いがきっかけだったと振り返る。
「ミラノ工科大学でアッキレ・カスティリオーニのゼミに所属していたのですが、当時、すでに彼は世界的に有名でしたし、学生を指導することはほとんどありませんでした。でも、私はたまたま彼に課題を見てもらうことができて、本当にラッキーでした。
彼のゼミは驚くほど独創的で、毎回いろいろなオブジェを持ってきては、皆でそれらのフォルムやデザインと人との関係について話し合ったり、卒業制作では、友人の家にいた時に『テレビが観られるラグがあったら面白いかも!』と思い、発電できるラグを作りました。発表の時には耐水性を確かめるためにそのラグに水をかけて、彼やゼミのみんなをヒヤヒヤさせたりもしたけど、そうやって様々なものを考察したり、実験的なものづくりへの挑戦をした経験が、今のキャリアにもつながっていると思います」
独創的なフォルムや色使い、意外な素材の掛け合わせ、そして革新的な技術を取り入れたサスティナビリティへの積極的な姿勢と、関わるプロジェクトごとに、他にはない、大胆な発想で驚かせてくれるウルキオラらしいエピソードであり、その唯一無二の個性がカッシーナにも新たな風を吹き込んでいる。
ウルキオラがカッシーナのアートディレクターに就任したのは、カッシーナが2017年の創業90周年を迎える少し前、2015年のこと。カッシーナの長い歴史の中で、シャルロット・ペリアン以来の女性デザイナーであり、ブランド初のアートディレクターとして注目が集まる中、巨匠たちが手掛けてきた名作と呼ばれるアイコンを、やはりウルキオラらしく大胆な色使いや素材へとアップデート。現代の暮らしに馴染むアイテムへと昇華させることで、幅広いコーディネートの提案を可能にした。
「異なる時代、異なるデザイナーのコレクションが自然に調和した温かみのある住空間を目指す。それがブランドの哲学「The Cassina Perspective」であり、今回新装した空間のコンセプトにもなっています。ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンなど、モダニズムを牽引してきたマエストロたちが手掛けた「イ・マエストリコレクション」のオブジェと、現代のデザイナーたちによる「コンテンポラリー・コレクション」のアイテムを組み合わせたコーディネートで、カッシーナならではの世界観を楽しんでもらえると思います」
さらに、「心地よい空間を叶えるには、トータルコーディネートが重要です。私が何か新しいものをつくるときも、存在感の強いオブジェ一点をただつくるのではなく、まずは空間のデザインを考えてから、それぞれの空間にとって必要なものをつくるようにしています」と言うウルキオラのデザインポリシーに導かれるように、花器などのアクセサリーコレクション「カッシーナ・ディテール」や、屋外で使用可能な「アウトドアコレクション」、照明コレクション「カッシーナ・ライティング」と、住空間全体をトータルコーディネートして楽しめるアイテムも拡充してきた。
ウルキオラ自身もカッシーナにおいて、15点を超える家具やインテリアアクセサリーをデザインしているが、中でも代表的な作品でもある「SENGU(セングウ)」シリーズは、日本から着想を得て生まれたもの。今回新装された1階入ってすぐのエリアには、同シリーズを進化させた新作ソファ「セングウ ボールド」が展示されており、訪れた人を出迎えてくれる。
「ベーシックなスタイル、コンテンポラリーなスタイルと、デザインのインスピレーションやストーリーは、プロジェクトごとに異なりますが、旅行先で出会った風景などメモリアルな体験をデザインすることもあり、SENGUシリーズはそのひとつです。伊勢神宮を訪れた際、日本の神社では、20年ごとに社殿を再建するための“遷宮”が行われていると知り、その文化に感銘を受けました。この日本の素晴らしいサーキュレーションをデザインで表現しています」
天板をポーセリン、大理石、木の3種からセレクトできる「セングウ テーブル」の脚の部分からは、木組みやどっしりとした円柱など、神社の鳥居や神輿に通じるものを感じさせる。
「ポーセリンの天板は、北海道を訪れた際、セラミックでできた緑の瓦屋根を見て、『これを私のデザインで表現したい!』と思い、つくったものです。日本はパッケージデザインも素晴らしくて、中身だけではなくて、パッケージも含めて全部がプレゼントですよね。そういう精神的な部分も含めて、日本は訪れるたびに、たくさんのインスピレーションを与えてくれます」
「とにかく日本が大好き!」と熱く日本への想いも語ってくれたウルキオラは、カッシーナの歴史と伝統を未来へとつなぐアップデート、そしてブランドの新たな価値を創造するコレクションの展開と、まさに、カッシーナの新時代を切り拓いている。
その世界観を前面に打ち出し、かつてないほど心地よく、エネルギーに満ちた空間が広がるカッシーナ・イクスシー青山本店。ファッションのように色を楽しむ遊び心、時代もデザインもミックスして楽しむ表情豊かなスタイリングと、新たなるカッシーナが提案するコーディネートで、インテリアへの夢とイマジネーションをぜひ広げてみてほしい。
カッシーナ・イクスシー青山本店
住所:東京都港区南青山2-12-14 ユニマット青山ビル 1,2,3階
営業時間:11:00~18:00
定休日:水曜
TEL. 03-5474-9001
公式サイトはこちら
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