2023年10月21日、カッシーナ・イクスシー青山本店がリニューアルオープン。同店は1927年創業のイタリアンモダンファニチャーブランド「カッシーナ」の旗艦店として、東京・青山に1997年に誕生以来、日本のインテリア界を牽引してきた。今回、ブランドの新たな世界観を打ち出す改装を機に来日したアート・ディレクター、パトリシア・ウルキオラに、心地よくもエネルギッシュなリニューアルについてなどを語ってもらった

BY EMI ARITA

 ル・コルビュジエをはじめ20世紀を代表する名匠たちの家具が揃い、イタリアンモダンを象徴するようなアバンギャルドな世界観を体現したブランド……カッシーナと聞くと、そんなイメージを抱く人も多いだろうが、今のカッシーナはどうも違った印象だ。
 青山通りに面したビルの1階から3階までの店舗のうち、今回1、2階を大幅に新装したカッシーナ・イクスシーの旗艦店である青山本店の店内は、たくさんの色がちりばめられ、明るく開放的でとても心地がいい。ふらっと店内をまわれば、あらゆる暮らしのイメージがふつふつと湧き上がってくる。

「ここを訪れた人にエネルギーを渡す場所にしたい。そんな思いでディレクションしました」と語るのは、本国イタリアにあるカッシーナのショールームのディレクションも務めるアート・ディレクター、パトリシア・ウルキオラだ。

画像: Patricia Urquiola(パトリシア・ウルキオラ) 1961年、スペイン、オビエド生まれ。マドリード工科大学、ミラノ工科大学で建築を学び、現在はミラノで活動。ミラノ工科大学で師事していたアッキレ・カスティリオーニなどのアシスタント講師を務め、ヴィコ・マジストレッティやピエロ・リッソーニのもとで様々なプロジェクトを経験してきた。2001年、自身のスタジオを開設。建築作品のみならず、世界的トップブランドのプロダクトやショールームのデザイン、インスタレーションなど幅広く活躍し、WallpaperやELLE DÉCORにおいてデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞。2015年9月より、Cassinaのアート・ディレクターに就任

Patricia Urquiola(パトリシア・ウルキオラ)
1961年、スペイン、オビエド生まれ。マドリード工科大学、ミラノ工科大学で建築を学び、現在はミラノで活動。ミラノ工科大学で師事していたアッキレ・カスティリオーニなどのアシスタント講師を務め、ヴィコ・マジストレッティやピエロ・リッソーニのもとで様々なプロジェクトを経験してきた。2001年、自身のスタジオを開設。建築作品のみならず、世界的トップブランドのプロダクトやショールームのデザイン、インスタレーションなど幅広く活躍し、WallpaperやELLE DÉCORにおいてデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞。2015年9月より、Cassinaのアート・ディレクターに就任

「カッシーナ・イクスシー青山本店には何度か訪れているのですが、ここにはもう少しエネルギーが必要だと感じていました。今回改装した1、2階には、リビング、ダイニング、寝室と様々なライフスタイルを想定したスタイリングを展示していますが、そのすべてに色のコントラストを楽しめるような遊び心をちりばめて、本国イタリアのショールームにかなり近い印象に仕上がっています。
 インテリアに色を入れるのが苦手な方もいるかもしれませんが、ここで提案しているスタイリングは、グレーや白、黒といったスタンダートな色をベースに、少しだけ色を挿すようにしています。やっぱり色があると、エネルギーがもらえるでしょ。それに、こういう色と色の組み合わせは、ゲームみたいなもので、みなさんファッションだとそういうのが上手ですよね。たとえば黒い服に赤いバッグをあわせたり、ゴールドのイヤリングをつけたり。インテリアでもそうやってベーシックな中に、ちょっとした遊び心=スパイスを加える感覚です」

画像: 1階エントランスを入ってすぐの展示。パトリシア・ウルキオラによる新作ソファ「セングウ ボールド」やピエール・ジャンヌレへのオマージュ作「カンガルー」、ヴァージル・アブローによるスツール「モジュラー イマジネーション」とアイコニックな家具とブルーやイエローがアクセントになったコーディネートで彩られている ソファ「セングウ ボールド」¥3,707,000、ローテーブル「セングウ コーヒーテーブル」¥748,000、スツール「モジュラー イマジネーション」¥330,000、ラウンジチェア「カンガルー」¥418,000、ラグ「アラル」¥1,067,000/カッシーナ

1階エントランスを入ってすぐの展示。パトリシア・ウルキオラによる新作ソファ「セングウ ボールド」やピエール・ジャンヌレへのオマージュ作「カンガルー」、ヴァージル・アブローによるスツール「モジュラー イマジネーション」とアイコニックな家具とブルーやイエローがアクセントになったコーディネートで彩られている

ソファ「セングウ ボールド」¥3,707,000、ローテーブル「セングウ コーヒーテーブル」¥748,000、スツール「モジュラー イマジネーション」¥330,000、ラウンジチェア「カンガルー」¥418,000、ラグ「アラル」¥1,067,000/カッシーナ

 その想いを情熱的に語り、自身からも溢れんばかりのエネルギーを放つウルキオラは、スペイン・オビエド出身。マドリード工科大学、ミラノ工科大学で建築を学び、現在、第一線で活躍する世界的な建築家・デザイナーだ。建築に携わる仕事をしていた家族や親戚に囲まれて育ったことから、子供の頃から建築家を目指してきたそうだが、デザイナーとしてキャリアをスタートすることになったのは、イタリア工業デザインのパイオニア的存在であるアッキレ・カスティリオーニとの出会いがきっかけだったと振り返る。

「ミラノ工科大学でアッキレ・カスティリオーニのゼミに所属していたのですが、当時、すでに彼は世界的に有名でしたし、学生を指導することはほとんどありませんでした。でも、私はたまたま彼に課題を見てもらうことができて、本当にラッキーでした。
 彼のゼミは驚くほど独創的で、毎回いろいろなオブジェを持ってきては、皆でそれらのフォルムやデザインと人との関係について話し合ったり、卒業制作では、友人の家にいた時に『テレビが観られるラグがあったら面白いかも!』と思い、発電できるラグを作りました。発表の時には耐水性を確かめるためにそのラグに水をかけて、彼やゼミのみんなをヒヤヒヤさせたりもしたけど、そうやって様々なものを考察したり、実験的なものづくりへの挑戦をした経験が、今のキャリアにもつながっていると思います」

 独創的なフォルムや色使い、意外な素材の掛け合わせ、そして革新的な技術を取り入れたサスティナビリティへの積極的な姿勢と、関わるプロジェクトごとに、他にはない、大胆な発想で驚かせてくれるウルキオラらしいエピソードであり、その唯一無二の個性がカッシーナにも新たな風を吹き込んでいる。

 ウルキオラがカッシーナのアートディレクターに就任したのは、カッシーナが2017年の創業90周年を迎える少し前、2015年のこと。カッシーナの長い歴史の中で、シャルロット・ペリアン以来の女性デザイナーであり、ブランド初のアートディレクターとして注目が集まる中、巨匠たちが手掛けてきた名作と呼ばれるアイコンを、やはりウルキオラらしく大胆な色使いや素材へとアップデート。現代の暮らしに馴染むアイテムへと昇華させることで、幅広いコーディネートの提案を可能にした。

画像: 1階に新設されたポップアップスペース。現在は、先行販売中のカッシーナ イ・マエストリコレクション50周年記念書籍「Echoes, Cassina. 50 years of iMaestri」にフィーチャー。数量限定のシャルロット・ペリアンのデイベッド「トウキョウ ドルムーズ」も展示されている。写真奥に見えるリビングルームをイメージした展示では、3人掛けの真っ赤な「マラルンガ50」が存在感を放つ デイベッド「トウキョウ ドルムーズ」¥2,860,000(リミテッドエディション)、アームチェア「インドシンヌ」¥539,000、スツール(左)「メリベル」¥165,000・(右)「ベルジェ」¥132,000、チェア「オンブラ トウキョウ」参考商品、ソファ「マラルンガ50 」¥4,015,000(3人掛け、リミテッドエディション)/カッシーナ

1階に新設されたポップアップスペース。現在は、先行販売中のカッシーナ イ・マエストリコレクション50周年記念書籍「Echoes, Cassina. 50 years of iMaestri」にフィーチャー。数量限定のシャルロット・ペリアンのデイベッド「トウキョウ ドルムーズ」も展示されている。写真奥に見えるリビングルームをイメージした展示では、3人掛けの真っ赤な「マラルンガ50」が存在感を放つ

デイベッド「トウキョウ ドルムーズ」¥2,860,000(リミテッドエディション)、アームチェア「インドシンヌ」¥539,000、スツール(左)「メリベル」¥165,000・(右)「ベルジェ」¥132,000、チェア「オンブラ トウキョウ」参考商品、ソファ「マラルンガ50 」¥4,015,000(3人掛け、リミテッドエディション)/カッシーナ

「異なる時代、異なるデザイナーのコレクションが自然に調和した温かみのある住空間を目指す。それがブランドの哲学「The Cassina Perspective」であり、今回新装した空間のコンセプトにもなっています。ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンなど、モダニズムを牽引してきたマエストロたちが手掛けた「イ・マエストリコレクション」のオブジェと、現代のデザイナーたちによる「コンテンポラリー・コレクション」のアイテムを組み合わせたコーディネートで、カッシーナならではの世界観を楽しんでもらえると思います」

画像: 2階では2つのモデルルームを展示。こちらは「上質なものを選び抜く審美眼をもった、落ち着いた世代の住まい」をイメージしたベッドルーム。エレガントな雰囲気の中に、ミラノのショールームと同じユニークな壁紙や、オットマン「ソフト コーナー」の赤、ラグのピンクと、アクセントカラーが効いた表情豊かなスタイリングに ベッド「ビオンボ」¥2,211,000(本体)、サイドテーブル「ビオンボ」¥473,000、ベンチ「シヴィルベンチ」¥550,000、オットマン「ソフト コーナー」(左)¥902,000(右)¥352,000、キャビネット「ロンドス」¥1,760,000、ラグ「アラル」¥1,067,000/カッシーナ

2階では2つのモデルルームを展示。こちらは「上質なものを選び抜く審美眼をもった、落ち着いた世代の住まい」をイメージしたベッドルーム。エレガントな雰囲気の中に、ミラノのショールームと同じユニークな壁紙や、オットマン「ソフト コーナー」の赤、ラグのピンクと、アクセントカラーが効いた表情豊かなスタイリングに

ベッド「ビオンボ」¥2,211,000(本体)、サイドテーブル「ビオンボ」¥473,000、ベンチ「シヴィルベンチ」¥550,000、オットマン「ソフト コーナー」(左)¥902,000(右)¥352,000、キャビネット「ロンドス」¥1,760,000、ラグ「アラル」¥1,067,000/カッシーナ

画像: 2階にあるもうひとつのモデルルームは、「流行に敏感なアクティブ世代の住まい」を想定。大理石の壁やグレーのラグを落ち着いた印象の中に、世界的ベストセラー「マラルンガ」ソファの個性的なフォルムとネイビーカラーがアクセントを添える ソファ「マラルンガ」¥3,278,000(3人掛けワイド)、ローテーブル「ボウイ」¥352,000〜¥440,000、ラウンジチェア「バックウイング」¥1,001,000、ラグ「アラル」¥1,067,000/カッシーナ

2階にあるもうひとつのモデルルームは、「流行に敏感なアクティブ世代の住まい」を想定。大理石の壁やグレーのラグを落ち着いた印象の中に、世界的ベストセラー「マラルンガ」ソファの個性的なフォルムとネイビーカラーがアクセントを添える

ソファ「マラルンガ」¥3,278,000(3人掛けワイド)、ローテーブル「ボウイ」¥352,000〜¥440,000、ラウンジチェア「バックウイング」¥1,001,000、ラグ「アラル」¥1,067,000/カッシーナ

 さらに、「心地よい空間を叶えるには、トータルコーディネートが重要です。私が何か新しいものをつくるときも、存在感の強いオブジェ一点をただつくるのではなく、まずは空間のデザインを考えてから、それぞれの空間にとって必要なものをつくるようにしています」と言うウルキオラのデザインポリシーに導かれるように、花器などのアクセサリーコレクション「カッシーナ・ディテール」や、屋外で使用可能な「アウトドアコレクション」、照明コレクション「カッシーナ・ライティング」と、住空間全体をトータルコーディネートして楽しめるアイテムも拡充してきた。

画像: 2020年にカッシーナ初の本格アウトドアコレクションとして登場したアイテムが展示されたアウトドアエリア。50年代のリゾートを想起させるソファ「セイル アウト」や、ロープ編みのデザインが特徴的な「ダイン アウト」シリーズのテーブル、チェアと、豊かなアウトドアシーンを演出 ソファ「セイル アウト」本体¥3,150,400、テーブル「ダイン アウト」¥1,067,000、チェア「ダイン アウト」¥286,000/カッシーナ

2020年にカッシーナ初の本格アウトドアコレクションとして登場したアイテムが展示されたアウトドアエリア。50年代のリゾートを想起させるソファ「セイル アウト」や、ロープ編みのデザインが特徴的な「ダイン アウト」シリーズのテーブル、チェアと、豊かなアウトドアシーンを演出

ソファ「セイル アウト」本体¥3,150,400、テーブル「ダイン アウト」¥1,067,000、チェア「ダイン アウト」¥286,000/カッシーナ

 ウルキオラ自身もカッシーナにおいて、15点を超える家具やインテリアアクセサリーをデザインしているが、中でも代表的な作品でもある「SENGU(セングウ)」シリーズは、日本から着想を得て生まれたもの。今回新装された1階入ってすぐのエリアには、同シリーズを進化させた新作ソファ「セングウ ボールド」が展示されており、訪れた人を出迎えてくれる。

「ベーシックなスタイル、コンテンポラリーなスタイルと、デザインのインスピレーションやストーリーは、プロジェクトごとに異なりますが、旅行先で出会った風景などメモリアルな体験をデザインすることもあり、SENGUシリーズはそのひとつです。伊勢神宮を訪れた際、日本の神社では、20年ごとに社殿を再建するための“遷宮”が行われていると知り、その文化に感銘を受けました。この日本の素晴らしいサーキュレーションをデザインで表現しています」

環境に配慮した100%再生繊維がクッションのパッディングに組み込まれている「セングウ ソファ」。「ただ柔らかくて座り心地がいいとか、そういう表面的なことだけではなくて、サーキュレーション素材を使った透明性のあるものづくりが、本当の意味での心地よさにもつながると考えています」(パトリシア・ウルキオラ)

「セングウ ソファ」本体¥2,453,000~/カッシーナ

 天板をポーセリン、大理石、木の3種からセレクトできる「セングウ テーブル」の脚の部分からは、木組みやどっしりとした円柱など、神社の鳥居や神輿に通じるものを感じさせる。
「ポーセリンの天板は、北海道を訪れた際、セラミックでできた緑の瓦屋根を見て、『これを私のデザインで表現したい!』と思い、つくったものです。日本はパッケージデザインも素晴らしくて、中身だけではなくて、パッケージも含めて全部がプレゼントですよね。そういう精神的な部分も含めて、日本は訪れるたびに、たくさんのインスピレーションを与えてくれます」

滑らかな触り心地が特徴のポーセリン天板バージョンの「セングウ テーブル」。職人が手を入れたようなエフェクトを施し、焼き物の風合いを感じるような仕上がりになっている

「セングウ テーブル」(ポーセリン天板)¥2,134,000〜/カッシーナ

「とにかく日本が大好き!」と熱く日本への想いも語ってくれたウルキオラは、カッシーナの歴史と伝統を未来へとつなぐアップデート、そしてブランドの新たな価値を創造するコレクションの展開と、まさに、カッシーナの新時代を切り拓いている。

 その世界観を前面に打ち出し、かつてないほど心地よく、エネルギーに満ちた空間が広がるカッシーナ・イクスシー青山本店。ファッションのように色を楽しむ遊び心、時代もデザインもミックスして楽しむ表情豊かなスタイリングと、新たなるカッシーナが提案するコーディネートで、インテリアへの夢とイマジネーションをぜひ広げてみてほしい。

画像: PHOTOGRAPHS BY : COURTESY OF CASSINA IXC.

PHOTOGRAPHS BY : COURTESY OF CASSINA IXC.

カッシーナ・イクスシー青山本店
住所:東京都港区南青山2-12-14 ユニマット青山ビル 1,2,3階
営業時間:11:00~18:00
定休日:水曜 
TEL. 03-5474-9001
公式サイトはこちら

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