話題作への出演が続き、最近ではティモシー・シャラメとの共演も記憶に新しいリナ・クードリ。まもなく公開される『オートクチュール』では、貧しい生活を送る若い娘がベテランのお針子に見いだされ、ディオールのアトリエを舞台に美を追求していく姿を演じ、いっそう注目が高まっている。演じることへの愛があふれる29歳の素顔に迫る

BY KURIKO SATO

「お待たせしてごめんなさい。疲れていないですか?」

 冬の日も暮れかかった夕方、インタビュー・ルームに現れたリナ・クードリは、自身が朝から撮影と取材の連続だったというのに、こちらを気遣う気配りを見せてくれた。「足が痛くて、脱いでもいいかしら」とちょっと恥ずかしそうに言うと、撮影で使った10センチ以上はありそうなピンヒールのディオールのパンプスを脱いで裸足になった。その自然な物腰に、思わず微笑みが漏れた。

 彼女にはその半年ほど前に、カンヌ国際映画祭に出品されたウェス・アンダーソン監督の新作、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊』の取材で会っていた。そのときは共演のティモシー・シャラメと一緒に多くの記者に囲まれていたが、雰囲気に飲まれるわけでも舞い上がるわけでもなく、とても自然体であり、率直で熱意に満ちていた。その好印象を、目の前の彼女から再び感じることができた。

画像: 本作の主演は、フランスを代表するベテラン女優、ナタリー・バイ(写真左)。ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者、エステルを演じる。また、ディオール専属クチュリエールが作品を監修し、初代“バー”ジャケットなどの名作や直筆スケッチ画など、貴重なアーカイブ作品の数々もスクリーンで堪能できる © PHOTO DE ROGER DO MINH

本作の主演は、フランスを代表するベテラン女優、ナタリー・バイ(写真左)。ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者、エステルを演じる。また、ディオール専属クチュリエールが作品を監修し、初代“バー”ジャケットなどの名作や直筆スケッチ画など、貴重なアーカイブ作品の数々もスクリーンで堪能できる
© PHOTO DE ROGER DO MINH

 アルジェリアに生まれ幼い頃、内戦によって両親とともにフランスに移住した彼女は、映画デビュー作『Les Bienheureux』(2017)で、早くもヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門の主演女優賞を受賞。同じくアルジェリア出身の女性監督ムーニア・メドゥールの初監督作『パピチャ 未来へのランウェイ』(2019)では、フランスのアカデミー賞にあたるセザール賞の有望新人女優賞を受賞し、フランス映画界で広く知られることになった。その後は、先出のアンダーソン作品、『ガガーリン』、そして新作『オートクチュール』と、出演作が後を絶たない。

 本作で彼女が演じるのは、オートクチュールとはまったく無縁の、パリ郊外の団地に住み、病弱な母の面倒を見ながら、時々スリを働く少女ジャド。自らの手で現状を変えることができず、将来に希望が持てないなか、オートクチュールのアトリエ主任であるエステル(ナタリー・バイ)と出会い、お針子にスカウトされたことで道が開ける。クリスチャン・ディオールが全面協力したという本作に出演を決めた理由を、クードリはこう語る。

「わたしはファッションに特に詳しいわけではありませんが、ジャドと同様に郊外の団地で育ったので、彼女の環境は手に取るようにわかりました。ただ脚本を読み始めたときは、冒頭、彼女の仲間がエステルのバッグをひったくる場面で、ちょっとひるんでしまった。というのも、映画で描かれる郊外の少年少女たちは大抵不良で、暴力やドラッグに身を浸す悪い子供たちとして描かれるから。それはわたしの知る郊外の生活ではない。でも読み進めるうちに、この物語がそんな紋切り型のイメージを覆すものであること、ジャドとエステルが立場を超えて理解し合う様に心を惹かれた。それぞれの登場人物が複雑さを持ち、単純なおとぎ話として描かれていないところも魅力でした」

 そんな印象を確信に変えたのが、シルヴィー・オハヨン監督との出会いだった。脚本を自身で書いたオハヨン監督もパリ郊外の出身で、この物語は多かれ少なかれ彼女の実体験から発想されたものだった。

「彼女が育った地域は、わたしの地元と隣同士で、隣人みたいなものでした。そして彼女自身が夢を諦めず、とても努力をしていまの地位にあることを知って、彼女が描くなら偏見や先入観に満ちたものになるはずがないと思ったのです」

画像: 今年公開された『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊』では、並み居るベテラン俳優陣の中でもまったく引けをとらず、みずみずしい存在感と確かな演技で観客の心をつかんだ実力派 © PHOTO DE ROGER DO MINH

今年公開された『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊』では、並み居るベテラン俳優陣の中でもまったく引けをとらず、みずみずしい存在感と確かな演技で観客の心をつかんだ実力派
© PHOTO DE ROGER DO MINH

 ジャドはこれまで想像すらしたことのないオートクチュールのアトリエで、ときにはエステルとぶつかりながらも、繊細な指の動きを生かしてクチュールを学んでいく。

「知らない世界への好奇心と、羽ばたきたいという欲求がジャドを後押しする。もしもエステルに勧められなかったら、彼女は自分の才能すら知らないままだったでしょう。一番最初に自分を信じてくれる人というのは、人生でとても大事だと思います。わたしが今の仕事をやることができたのは、劇団時代に自分を信じて励ましてくれた先生、最初に役をくれたキャスティング・ディレクターのおかげ。その恩は今でも忘れません」

 トントン拍子のキャリアに見えるものの、クードリにとって25歳でデビューするまでの道のりは長かった。

「ずっと映像に関わる仕事や、ニュースキャスターに憧れていました。そのあと俳優の仕事は直接的に映像に結びつくことに気づき、俳優になりたいと思った。でも自分が育った地域にはそんな知り合いは誰もいなかった。18歳から22歳の4年間、学校の専攻を変えたり、学業をストップして働き始め、それからまたシアターに入り直したりと紆余曲折を経た。自分を信じることは勇気がいるし、やりたいことを貫くのは断固とした意志が必要なのだと思います」

画像: ナタリー・バイとの共演で、学ぶことも多かったというクードリ。演じることに真摯に向き合う姿が印象的で、ますます目が離せない存在になりそうだ © PHOTO DE ROGER DO MINH

ナタリー・バイとの共演で、学ぶことも多かったというクードリ。演じることに真摯に向き合う姿が印象的で、ますます目が離せない存在になりそうだ
© PHOTO DE ROGER DO MINH

 彼女はまた、仕事で出会った人々からも多くを学んできたという。

「メドゥール監督は、わたしがセリフを変えたりコラボレーションをする自由を与えてくれた。ティモシー(・シャラメ)は、毎回テイクごとに微妙に反応が違って、その創造性にインスパイアされました。そしてナタリー・バイからは勤勉であること、謙虚であることを学びました。彼女と一緒にアトリエで縫製の基本などを学びましたが、大女優なのに驚くほどに謙虚で寛大なんです。ディオールのアトリエの人々もとても協力的で、彼女たちの規律正しい仕事ぶりや多大な情熱など、未知の世界について知ることができました」

 次回作は、ヴァンサン・カッセル、エヴァ・グリーン、ロマン・デュリスらの共演により、二部作になることが決まっている大作『三銃士』が控える。その華奢な身体に芯の強さと繊細さを備えた29歳の大輪は、今後もしなやかに独自の道を切り開いていくに違いない。

画像: 『オートクチュール』予告編 ©2019-LES FILMS DU 24-LES PRODUCTIONS DU RENARD-LES PRODUCTIONS JOUROR www.youtube.com

『オートクチュール』予告編
©2019-LES FILMS DU 24-LES PRODUCTIONS DU RENARD-LES PRODUCTIONS JOUROR

www.youtube.com

『オートクチュール』
2022年3月25日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
公式サイトはこちら

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