BY REIKO KUBO
アメリカが輝いていた1950年代を舞台に人間模様が鮮やかに展開する、ウェス・アンダーソン監督の最新作『アステロイド・シティ』
『グランド・ブタペスト・ホテル』など、ポップでカラフルなアート・ワークと豪華キャストとともに創り上げる個性的な作品で人気を誇るウェス・アンダーソン。その最新作の舞台は1955年、隕石による巨大なクレーターが残る、アメリカ南西部の砂漠の街アステロイド・シティ。隕石が落ちたアステロイド・デイを記念して、ジュニア宇宙科学賞に輝いた5人の天才少年少女と家族が招待される。遠くにはキノコ雲が立ち上り、時代はまさに冷戦真っ只中。イベント司会を務める陸軍元帥は、天才少年少女たちの頭脳がロシアとの科学競争に活かされることを期待している。授賞式が始まると、なんと宇宙船が飛来!その事実を隠蔽しようとする軍によって招待客らは街に閉じ込められるが……。
ところがこれは人気脚本家(エドワート・ノートン演じる)が書き、演出家(エイドリアン・ブロディ)によって上演される舞台劇という設定。この入れ子構造が物語を複雑にしているところもあるけれど、モニュメントバレー等を模した書き割りと実写を融合させた、美しい箱庭のようなシーンの連続に心奪われる。
空のブルーが目に焼き付く舞台劇の登場人物は、妻が亡くなったことを告げられないまま、息子とその妹3人をアステロイド・シティに連れてきた戦場カメラマン(ジェイソン・シュワルツマン)や、彼を最愛の娘の夫として評価できない義父(トム・ハンクス)、マリリン・モンローを投影した女優(スカーレット・ヨハンソン)、天才少年少女たちを率いながら、自分も子供を産んでおけばよかったと考える博士(ティルダ・スウィントン)など個性派多数。彼らが抱えるメランコリーが、甘いカントリー・ウェスタン・ミュージックの調べに彩られたスクリーンを包み、謎の宇宙人(キャストはお楽しみ!)やクールな天才少年少女たちの活躍が見る者をクスッと笑わせ、ワクワク感を増幅させる。
『アステロイド・シティ』
TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイト シネクイントほか全国公開中
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ケイト・ブランシェットが悩み多き母親役を熱演!『バーナデット ママは行方不明』
英国女王エリザベスから最強のエルフ、ガラドリエルまで。はたまた吸血鬼からボブ・ディランまで──変幻自在の女優ケイト・ブランシェットが、『TAR/ター』で圧巻のプレゼンスと力技を見せつけたのは記憶に新しいところ。そんなブランシェットは今年の頭に引退を仄めかして話題を呼んだが、映画『バーナデット ママは行方不明』は『TAR/ター』より前に撮られた作品。ブランシェットが演じるのは、シアトルの大きな屋敷で、IT成功者の優しい夫(ビリー・クラダップ)と親友のような娘ビーと暮らしているバーナデット。家族以外との人付き合いが苦手で、ビーの学校送迎時も大きなサングラスをかけ、ママ友を避けるべくビーが乗り込むや急発進。そんなある日、ビーが中学を主席で卒業したお祝いに、家族で南極旅行に行きたいと言い出した。バーナデットはオンライン秘書に準備を丸投げしながらも、最愛の娘のためにと自らを鼓舞し続けるのだが……。
ブランシェットは、シニカルでエキセントリックな、心にトラウマを抱え込んだヒロインを嬉々として演じて魅せる。そしてスタジオのブルーバックで撮影後に背景を合成する予定だったところ、本物の海と氷にこだわって監督にロケを直談判。グリーンランドの真白な世界の中で過去と向き合い、息を吹き返すヒロインの変化を爽快に浮かび上がらせる。監督は『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』から始まる“ビフォア”シリーズ3部作や『6歳のボクが、大人になるまで。』の監督リチャード・リンクレイター。ヒロインだけでなく、自分と向き合い成長する家族の姿にも寄り添う、この人気監督の眼差しが見る者に爽やかな余韻と元気を運んでくれる。
『バーナデット ママは行方不明』
9月22日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
© 2019 ANNAPURNA PICTURES LLC. All Rights Reserved.
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ファッションが好きな人すべてに問いかける意欲作『ファッション・リイマジン』
この夏の異常な暑さは、人類が積み重ねてきた環境破壊の結果を人々に突きつけた。状況を逆回転させることはできないのだから、できることを粛々とやるしかない。そんな思いを勇気付けてくれるのが、ドキュメンタリー映画『ファッション・リイマジン』だ。2017年、英国ブランドMother of Pearl(以下MOP)のエイミー・パウニーは、英国ファッション協議会とVOGUEによって、その年の英国最優秀新人デザイナーに選ばれた。彼女は、その賞金10万ポンドを使って、MOPのサステナブル・ラインNo Frills(”飾りは要らない”の意)を立ち上げると決意。映画は、パウニーの挑戦の行方を追うために3年もの間、彼女に密着。ロンドン・ファッション・ウィークでのコレクション発表までの道のりを映し出す。
家族とともにオフグリッドな農場で育ったパウニーは、学生時代からファッション業界の環境問題への取り組みの遅れを危惧していた。業界全体で、中国やアメリカに次ぐ二酸化炭素量を排出。加えて児童労働、化学薬品による環境汚染といった数々の問題。大量に生産され、大量に廃棄される化学繊維は生物分解されず、ゴミ処理場で200年間残り、合成繊維の洗濯から出る海洋マイクロ・プラスチックごみは全体の35%を占める。一方、パウニーはまず、プレシーズンを含め、年4回のコレクション発表を2回のみに。そしてオーガニックでトレーサブル(追跡可能)な原材料、最小限な水と化学物質、動物福祉、低炭素排出量、最小限の地域で生産、社会的な責任を目標とした。条件を満たす原材料や生産工程を求め、パウニーは商品開発担当のクロエとたった二人で、オーストリア、ウルグアイ、ペルーと世界を飛び回る。さらに集まった材料からデザインを考えるというプロセスも画期的だ。
「すべてのファッション好きとファション・ブランドが観るべき作品!(The Times)」など絶賛されたドキュメンタリーだが、パウニーの命ある地球への真摯な想いは服を必要とするすべての人々に伝わるはずだ。
『ファッション・リイマジン』
9月22日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
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