BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY TAMEKI OSHIRO
稽古の積み重ねで演じる役を深く知る
ドラマや映画で活躍の場を広げている千葉雄大が次に出演する舞台『ワタシタチはモノガタリ』は、高い評価を得ている劇作家・横山拓也が書き下ろしたファンタジックなラブコメディ。まずは現実と虚構が入り交じるこの物語のあらすじから紹介する。主人公の肘森富子(江口のりこ)は中学生時代に同じ文芸部にいた同級生の藤本徳人(松尾諭)が転校してしまい、その後、15年間も文通を続け、“30歳になって互いが独身だったら結婚しよう”という冗談交じりの約束をしていたのだが、富子にとって初恋の相手だった徳人は同僚と結婚してしまう。二人は彼の結婚式で再会し、富子は互いが15年間綴った往復書簡をすべてもらい、その手紙に記されたそれぞれの名前を架空の人物に置き換え、さらに脚色した文章をSNSに掲載する。それが評判となって、出版や映画化の話へと進展していく……。
千葉が演じるのは、この手紙上の架空の人物の男性・フジトリヒトと、映画でリヒト役に配役されたウンピョウだ。8月上旬、都内のスタジオで稽古が始まってまだ2日目というタイミングで行われた取材で、作品の印象について聞いた。
千葉雄大(以下、千葉) 僕は会話劇が好きなのですが、この作品には相槌で会話を積み上げているところがあって、それが面白いと思いました。そして主人公が“モノガタリ”を創るので、エンターテインメントに携わっている者としては、創り手の気持ちに想いを馳せることができます。例えば人から注目を集めようとは思わずにつくっている創作物というものがあって、SNSで急にバズることがまさにそれですが、発信することでクローズドなことが一気にオープンになってしまう瞬間の怖さみたいなものがありますよね。徳人が自分の書いたものを富子が名前を変えて脚色したとしても、無断でSNSに発信されてしまったら嫌かもしれないと思いました。そして、僕が演じる役の一つは富子が創作したリヒトという不思議な存在なので、その二次元性と血の通わせ方のバランスが難しそうだなと感じています。
昨日初めて台本の読み合わせがあって、改めて思いましたが、とても面白かったです。普通に笑っていたのですが、あまり声を出してはいけないと思って我慢していたら気持ちの悪い感じになってしまって(笑)。隣の席が松岡茉優さんだったので、僕の抑え気味の笑い声が聞こえていないといいなと心配でした。松岡さんも架空の人物・ヒジリミコとミコ役を演じる女優の川見丁子の二役なのですが、読み合わせで怒る場面があって、それがとてもチャーミングでした。
リヒトとウンピョウ。彼が演じるこの二役にはどんなイメージを描いているのだろうか。
千葉 ウンピョウさんは現代アートのアーティストで、書家でもあるのですが、今の自分に満足していなくて、その状況にいろいろと考えていることがある人。自信がないようで、実は自信があるという裏表があって、表に出る仕事をしているのに自分でキラキラしようとしていない。人からすると何を考えているのかわからないと思われてしまうのかもしれないような人物です。そういう人が何を見つけるのか、見つけられないのかもしれないのですが、何を求めようとするのかを稽古を通して探していきたいと思います。
リヒトは富子さんの“イマジナリー彼氏”なのですが、僕は今までに“イマジナリーな人”を演じたことはありません(笑)。台本を読んだ印象ではわかりやすいと思いましたが、いざ演じるとなると、そこは浮いていた方がいいとか、馴染まない方がいいとか、いろいろなバランスがあると思いました。二次元の存在として富子さんにただ寄り添うだけなのか、富子さんはリヒトに何を求めているのか、そういうことを一つ一つ考えていきたいと思います。
言葉を声と肉体で表現する面白さ
本作では“モノガタリ”をSNSで発表するという設定だが、小説を読むとしたら紙媒体とデジタルのどちらを好むのか、聞いてみた。
千葉 小説は紙ですね。最近は全然読書をしていないのですが、母がすごく読書好きでして、最近東京に遊びに来た時は『たぶん私たち一生最強』というタイトルの本を読んで「めっちゃ面白かった」といっていて、その本を残して宮城に帰っていきました。まずはそれを読んでみようかなと思っています。僕が子ども頃は子育てで忙しくて読んでいる姿を目にしたことはあまりありませんでしたが、大学生時代に住んでいた家にやってくると、本棚にある僕の本を手に取って「これを読んでいい?」というので、母のことを“読書の虫”と呼んでいました。
僕自身は小学校の頃に親の前で国語の教科書を読む「本読み」という宿題があって、それが好きでした。どうしてなのかはわかりませんが、それが楽しかったんです。実は僕、中学生の頃は“いつかアナウンサーになりたい”という夢があって、声を発したいという気持ちは今も同じなんです。ついつい新聞の文章を朗読したくなってしまう(笑)。声を出して文章を読むという癖があります。
舞台だからこそ味わえる境地
表現する方法のひとつとしてYouTubeでWebラジオ「千葉雄大のラジオプレイ」を配信しているのも、子どもの時に抱いていたアナウンサーになるという夢を叶えるためだったのかもしれない。彼の夢は舞台で台詞を発することにも繋がっていると思うが、どんな思いで舞台に立っているのだろうか。
千葉 今日はダメだったなとか、今日は良かったんじゃない?とか、まだわからないとか、考える間もなく立っていたとか……、自分が思いもよらなかった境地へ連れて行ってくれることがあるかもしれない。それが面白いと思って演じています。今までに出演した舞台作品は、作品で描かれる時間が年単位とか、長いものが多い気がするのですが、今回の作品はわりと短い気がしていて、僕が演じる役は年齢的な積み上げがあまりない役なので、どういう人なのかを考えたり、妄想したりするのが楽しいなと思っています。“イマジナリー彼氏“ってどういう人なのでしょう。
舞台に出る上でのルーティンはありません。正確にいえば、作らないようにしました。最初は決めてやっていたことがあったのですが、一つ乱れたことですごくパニックになってしまったので、やめました。流れに身を任せて、呼ばれたら行くという感じ。お稽古中は映像よりも始まりが遅いので、朝、ちゃんと起きよう!ぐらいですね。そうしないと1日が早く終わってしまうから(笑)。
最後に、本作を通してどんなことを楽しんでほしいのか聞いた。
千葉 “ご自由に”ということを前提として話しますが、“居場所”ってあったらいいなと思います。誰かのところに会いにいくということでもいいし、何かをしているときでもいいと思うのですが、それを見つけることが人によっては難しい人もいると思います。僕の場合、“互助会”という遠慮をせずにヘルプをお互いにしようという会を作っていて、そういう居場所を作るのは何歳になってもできることだと僕は思っています。作品では富子さんのように物書きをする上で、いろいろな人と出会うという場所もあるし、彼女は書くことを楽しんでいるのだから、それ自体が自分の居場所なのかもしれないですね。僕はその互助会で過ごすのは心地がいいですが、居場所を一つの場所に限定しないことにしています。
登場人物たちを俯瞰することで、あなた自身にとっての心地よい“居場所”が見つかるかもしれない。
STYLED BY KEN SAGAE AT EMINA, HAIR&MAKEUP BY SAYAKA TSUTSUMI
『ワタシタチはモノガタリ』
作:横山拓也
演出:小山ゆうな
出演:江口のりこ、松岡茉優、千葉雄大/入野自由、富山えり子、尾方宜久、橋爪未萠里/松尾諭
(東京公演)
会場:PARCO劇場
上演日程:2024年9月8日〜30日
問合せ:パルコステージ TEL. 03-3477-5858
公式サイトはこちら
(福岡公演)
会場:キャナルシティ劇場
上演日程:10月5日〜6日
(大阪公演)
会場:森ノ宮ピロティホール
上演日程:10月11日〜14日
(新潟公演)
会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
上演日程:10月18日〜19日
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