かつて美術館には女性アーティストの作品がほとんどなかった。現代では彼女たちの作品のみならず、そのワードローブまでもが展示されているのはなぜか。今回、本誌のために5人のデザイナーが特別に作ってくれた、5人の女性作家へのオマージュをこめたワークウェアとともに

BY THESSALY LA FORCE, PHOTOGRAPHS BY KATJA MAYER, SET DESIGN BY JILL NICHOLLS, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 ワードローブは芸術作品の一部なのか。あいまいな答えしか見つからないが、それは芸術家のタイプによるのだろう。だが、もし女性のアーティストについて考えるなら、イエスと言えるかもしれない。そもそもアーティストが身につけるものは大切なのだ。ある意味、創作過程をパフォーマンスとして表現するのがアーティストなのだから。作品が人々にどう見てとられるかが大事なように、創作に携わるアーティストが人々にどう映るかも重要というわけだ。ちなみにここで、女性アーティストの個展が最近になってようやく開かれるようになったという事実にも触れておく必要があろう。

ジョージア・オキーフの最初の回顧展がニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されたのは1946年だが、同美術館が生存中の女性アーティストの回顧展を催すのはそれが初めてだった。多くの美術館は、長い間女性アーティストの業績をほとんど認めておらず、なかにはその存在すら認めていない美術館もあった。フランス系アメリカ人の彫刻家、ルイーズ・ブルジョワがMoMAで最初の展示会を開いたのは1982年、ブルジョワはすでに71歳だった。この状況は今もさして変わらない。美術館の収蔵品数や展示会の回数をアーティストの男女差で比べると、いまだに驚くような隔たりがある。ワシントンの国立女性美術館によると、アメリカの主要美術館の常設作品のうち、女性アーティストの作品が占める割合は3~5%にすぎないらしい。ニューヨークの国立デザインアカデミー美術館の館長マウラ・ライリーは、2015年の調査の結果、アメリカの美術館で2007年から2014年に開かれた女性アーティストの個展の数が、ごくわずかでしかないことがわかったという(ホイットニー美術館では29%、ニューヨークのグッゲンハイム美術館では14%のみ。がっかりするような少なさだが、実はこれでも改善されている。2000年にグッゲンハイム美術館で開かれた女性アーティストの個展の数はゼロだったのだ)。

一方、主要美術館における女性アーティストの個展の数は増えつつあるものの、気になるのは作品と同様の扱いで、エフェメラ(本来なら長期保存されないもの)が、とりわけワードローブが披露されることだ。これはオキーフの回顧展に限らず、最近よくある。この夏、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で開かれるフリーダ・カーロ展でも、絵画作品と一緒に彼女のドレスが展示される。昨年、MoMAで初めて催された、女性写真家ルイーズ・ローラーの回顧展もその例にもれない。自分の写真を撮られることをかたくなに避けてきたローラーだが、展示室最後部のガラスケースには、アートギャラリーの招待状、封筒、紙ナプキン、マッチ箱など彼女が普段使っていたオブジェがぎっしり並んでいたのだ。まるで情報の断片をつないで伝記を完成させ、とらえどころのないローラーの作品がいつどこで生まれたのかを探りあてさせるかのように。

シモーネ・ロシャによる、
彫刻家ルイーズ・ブルジョワのためのワークウェア

画像: アイルランド人デザイナー、ロシャの心に強く響いたのは、ブルジョワが不眠症に悩まされていたという点。そこで彼女は、ドレスのようで羽毛布団のような、ふんわりとしたコクーン型の服を考案した。「夜遅くまで仕事をするときに、そっと守ってくれて、気持ちをなごませてくれるような何かを作れたらと思って。羽毛布団の下にもぐりこんだような気持ちになれる服をね」とロシャ。セックスから潜在意識に至るまであらゆる題材をもとに、ブルジョワが手がけた多くのさまざまな作品に、ロシャは自分との深いつながりを感じるという。確かに、「生物の形態を思わせるブルジョワの作品」と、ロシャのゆがんだシルエットのドレスには不思議な類似点がある。ニューヨークのウースター通りにあるロシャのブティックの壁は、ブルジョワの《Lullaby》(子守歌の意味、2006年制作)という、生物のようなモチーフを楽譜に描いた24枚のスクリーン印刷が飾ってあるそうだ。《Lullaby》は今回のウェアだけでなく、ロシャの2015-’16年秋冬コレクションの着想源でもあり、これをもとに彼女は当時、赤い刺しゅうを施したスキンカラーのチュールドレスをデザインしている

アイルランド人デザイナー、ロシャの心に強く響いたのは、ブルジョワが不眠症に悩まされていたという点。そこで彼女は、ドレスのようで羽毛布団のような、ふんわりとしたコクーン型の服を考案した。「夜遅くまで仕事をするときに、そっと守ってくれて、気持ちをなごませてくれるような何かを作れたらと思って。羽毛布団の下にもぐりこんだような気持ちになれる服をね」とロシャ。セックスから潜在意識に至るまであらゆる題材をもとに、ブルジョワが手がけた多くのさまざまな作品に、ロシャは自分との深いつながりを感じるという。確かに、「生物の形態を思わせるブルジョワの作品」と、ロシャのゆがんだシルエットのドレスには不思議な類似点がある。ニューヨークのウースター通りにあるロシャのブティックの壁は、ブルジョワの《Lullaby》(子守歌の意味、2006年制作)という、生物のようなモチーフを楽譜に描いた24枚のスクリーン印刷が飾ってあるそうだ。《Lullaby》は今回のウェアだけでなく、ロシャの2015-’16年秋冬コレクションの着想源でもあり、これをもとに彼女は当時、赤い刺しゅうを施したスキンカラーのチュールドレスをデザインしている

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