かつて美術館には女性アーティストの作品がほとんどなかった。現代では彼女たちの作品のみならず、そのワードローブまでもが展示されているのはなぜか。今回、本誌のために5人のデザイナーが特別に作ってくれた、5人の女性作家へのオマージュをこめたワークウェアとともに

BY THESSALY LA FORCE, PHOTOGRAPHS BY KATJA MAYER, SET DESIGN BY JILL NICHOLLS, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 美術館は、ドレスやイヤリング、走り書きがされた封筒など、アーティストが残したものに焦点をあて、これらに見られるスタイルこそがアートの根底にあるとほのめかす。確かにそれも一理ある。たとえばコンセプチュアル・アーティストで、いつも険しい顔つきをしている草間彌生。彼女は確かに、執拗に描き続けている水玉模様に似た、真っ赤なウィッグと、柄入りのムームーをよく身につけている。そんな草間は1968年に「Kusama Fashion Company Ltd.」というファッションブランドを立ち上げ、その服をアメリカのデパート、ブルーミングデールズに設けられた「クサマ・コーナー」で販売していたことがある。これはファッションに対するコンセプチュアルな風刺であると同時に、アートを商業化しようとする真面目な試みだった。草間がデザインしたドレスは、カットアウト部分から胸やヒップが見え、思わず笑ってしまうほど突飛で“着られる服”とはほど遠かった。草間が目指したのは、“女性は美しく装い、性的な魅力をアピールするべき”というファッションのルールを覆すことだったのだ。

一方で、色の魔術師と呼ばれるアーティスト、ソニア・ドローネーは、以前こんなふうに言っていた。「いつだって身の回りのあらゆるものを自分の手で変えてきたわ。ひとつ目の白い壁は自分で作り、自分たちの絵がもっと引き立つようにしたし、家具だってデザインした。何でも手がけたの。日々の生活すべてが芸術みたいなものだったから」。

過去の女性アーティストたちにとっては、アートに携わることも、それを生み出すことも容易ではなかった。そもそも、クリエーションとは骨の折れる労働なのだ。だからこそアーティストは“ワークウェア”を着る。イギリスの画家ルシアン・フロイドを例にとれば、彼は絵を描く前に、白いシーツを引き裂いて四角い布を作り、それをウエストベルトに押し込んでエプロンにしていた。一日が終わるとぼろぼろになったその布は捨てたそうだ。ムームーやスモック、ボーダーシャツといったワークウェアは、確かにアーティストの個性と、歯車のように果てしなく続く単調な創作の日々を象徴する。だがこうした見方をすることは、つまり、作品自体の価値をないがしろにしてしまうことになるのだろうか。ロマン主義や耽美主義の哲学では、芸術を人生として、人生を芸術として位置づけている。私たちは本当に、男性アーティストの芸術作品に限ってのみ、芸術そのものを語らせ、芸術それ自体の評価をしているといえるのだろうか?

 必ずしもそうとは限らない。男性アーティストの個人的な空間というものも存在するからだ。たとえばアメリカ人美術家ドナルド・ジャッドの、マンハッタン最南部、スプリング通りにある家。現在は美術館として公開されている、ユニークな記念建造物だ。キッチンのオープン棚に並んだ食器をはじめ、ここではほとんどのものが、ジャッドが1994年に逝去するまで使っていた状態のまま保存されている。彼が読んでいた本は今も書斎に並び、南イタリアで入手した陶器のボウルは家のあちこちに配され、彼が着ていたファーコートは上階のクロゼットにそのまま掛かっている。アーティストのダン・フレヴィンによる蛍光灯を使った迫力ある作品はベッドルームを照らし、フランク・ステラの絵画作品のうち最も美しい《Gur II》(1967年作)はまるでジャッドが制作依頼をしたかのように、その場に見事に溶け込んでいる。こうしたオブジェのおかげで、彼の生活や友人関係は垣間見えるものの、なぜか“パーソナルな部分”がまるで伝わってこない。人のぬくもりに欠けた、巨大で幾何学的な、彼の彫刻作品と同じように。建築家フィリップ・ジョンソンがコネチカット州のニューケイナンに建てた「グラスハウス」と同様に、ジャッドの家はミニマリズム(彼自身はこの表現を拒んでいた)へのオマージュにすぎない。彼が擁護していた、インダストリアル風の空虚でカラフルなアートへのトリビュートにすぎないのだ。だからこの家ではジャッドのそばまで行けても、彼本人を見いだすことはできない。

トム・ブラウンによる、
画家アグネス・マーティンのためのワークウェア

画像: ブラウンは、抽象表現主義の先駆者マーティンのために、伝統的なサックスーツ(上着がゆったりしたスーツ)というクラシックなアイテムを選んだ。ブラウンとマーティンのクリエーションに共通するのは、シンプルさと、派手な色が苦手な点。「僕とアグネスは厳格なところが似ているかな」とブラウン。「この気質をワークウェアに表したくて。彼女の理路整然としたところや、アートへの知的なアプローチには僕も感化されているしね」。シアーなコートは、アトリエでスーツが汚れるのを防ぐためのアイテム。履きやすいオックスフォードシューズは、多様なものを観察し、絵を描くために、つねに立ちっぱなしだった彼女のためのチョイスだ

ブラウンは、抽象表現主義の先駆者マーティンのために、伝統的なサックスーツ(上着がゆったりしたスーツ)というクラシックなアイテムを選んだ。ブラウンとマーティンのクリエーションに共通するのは、シンプルさと、派手な色が苦手な点。「僕とアグネスは厳格なところが似ているかな」とブラウン。「この気質をワークウェアに表したくて。彼女の理路整然としたところや、アートへの知的なアプローチには僕も感化されているしね」。シアーなコートは、アトリエでスーツが汚れるのを防ぐためのアイテム。履きやすいオックスフォードシューズは、多様なものを観察し、絵を描くために、つねに立ちっぱなしだった彼女のためのチョイスだ

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