かつて美術館には女性アーティストの作品がほとんどなかった。現代では彼女たちの作品のみならず、そのワードローブまでもが展示されているのはなぜか。今回、本誌のために5人のデザイナーが特別に作ってくれた、5人の女性作家へのオマージュをこめたワークウェアとともに

BY THESSALY LA FORCE, PHOTOGRAPHS BY KATJA MAYER, SET DESIGN BY JILL NICHOLLS, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 確かにアーティストの精神性や日常生活まで掘り下げれば、クリエーションについてより深く理解できる。でもその加減は微妙で、ひとつ間違えば個人的で私的なゾーンに踏み込んでしまうことになる。そしてこの“のぞき見感覚”をももたらす私物の陳列は、総じて女性アーティストの展示会に特有のものだ。たとえば、ピカソ作《マリー・テレーズの肖像》の横に、彼がよく着ていたボーダーシャツを並べたりはしないだろう。サルバドール・ダリの《燃えるキリン》と一緒に、ダリのネクタイなど展示しないし、ジャクソン・ポロックが《秋のリズム》を描いたときに、飛び散った絵の具がついた彼のパンタロンを陳列するはずもない。レンブラントのベレー帽など、いったい見たことがあるだろうか。だが悲しいかな、女性アーティストの個展となると、どうやら作品だけでは不十分らしい。

 アートとファッション。このふたつは、共通のDNAを持ちながら、競い合う兄弟のようだ。同じ一族なので生まれつきの共通点と似た性質を備えているし、両者が混ぜこぜになっても私たちは仕方がないと思っている。双方にとって大切なのはプロセスと美意識で、ともに内なる世界をたたえ、自分たちの存在を支える知名度や売れ行きに、ますます関心を高めている。ただ、ファッションがいやがおうでも消費者のために作られるなら、アートは表現形式としてとどまっていられる。それでもこのふたつの世界はつねに交わり合ってきた。

ココ・シャネルは1924年に、バレエ・リュス(ロシア人芸術プロデューサー、ディアギレフが主宰したバレエ団)のコスチュームをデザインした。当時のシャネルはディアギレフの一団に夢中で、彼らと頻繁にコラボレーションをしていたピカソにも近づきたいと思っていたからだ。アートとファッションのこうした結びつきは、場合によってはクリエイティブな刺激を生むことも、片方だけが甘い汁を吸うこともある。たとえば創作にアートを結びつければデザイナーの価値は高まり、美術館はファッションの要素を採り込むだけで、来場者数を増やすことができる(オキーフ回顧展の来場者数は12万5000人にまで上った)。ときには美しく崇高な関係も築く。ピエト・モンドリアンによるモダニズムの斬新な絵画をもとに、1965年にサンローランがデザインしたカラーブロックドレスがその一例だ。

また兄弟のようなアートとファッションが、当然のごとく一体化することもある。ミクストメディア(複数の素材や技法を使用する)・アーティストのヴァネッサ・ビークロフトは、90年代後半に注目を集めて以来、作品の中にプロのモデルやデザイナーの服を採り入れるようになった。2002年には、裸の女性の一団にヘルムート・ラングのスティレットブーツを履かせて、まぶたに焼きつくようなパフォーマンスを披露している。が、ときに両者は、明らかに売り上げや利益のためだけに結びつけられてしまう。ディオールのクリエイティブ・ディレクター、マリア・グラツィア・キウリは、最近のコレクションで美術史家リンダ・ノックリンの言葉を飾ったTシャツを披露した。その言葉とは、1971年にノックリンが男女不平等について綴った、画期的な著作のタイトルで『なぜこれまで偉大な女性芸術家はいなかったのか』というもの。が、あいにくその答えを、ディオールのランウェイで見つけることはできなかった。

ジョナサン・アンダーソンがデザインした、
シンディ・シャーマンのためのワークウェア

画像: アンダーソンは、写真家シャーマンの世界に宿る多様な女性像と、彼女が紡ぎ出すウィットに富んだ物語に惹かれるという。自身の名を冠したブランドとロエベで、挑発的で遊び心のある服を提案する彼が、同じ要素をもつシャーマンのアートを好むのは当然のことだろう。「シンディ・シャーマンの表す“自由”、つまりたったひとりの人間が、多様に表現する“自由”に魅力を感じるんだ。それとストーリーテリング(伝えたいことを物語形式にして語り、印象づけること)の要素も気に入っている。僕らが生きる現代において、ストーリーテリングは何より大切じゃないかって思うから」とアンダーソン。40年代風のギャバジンスーツには、女性が従うべき慣習に抗し続けきたシャーマンの姿勢が映し出されている。ジャケットについた性器のような形のシリコン製ボタンは、想像の人物に扮したり、ゆがめた肉体を表現したりしながら、つねに衝撃的なビジュアルを生んできたシャーマンへのトリビュートだ

アンダーソンは、写真家シャーマンの世界に宿る多様な女性像と、彼女が紡ぎ出すウィットに富んだ物語に惹かれるという。自身の名を冠したブランドとロエベで、挑発的で遊び心のある服を提案する彼が、同じ要素をもつシャーマンのアートを好むのは当然のことだろう。「シンディ・シャーマンの表す“自由”、つまりたったひとりの人間が、多様に表現する“自由”に魅力を感じるんだ。それとストーリーテリング(伝えたいことを物語形式にして語り、印象づけること)の要素も気に入っている。僕らが生きる現代において、ストーリーテリングは何より大切じゃないかって思うから」とアンダーソン。40年代風のギャバジンスーツには、女性が従うべき慣習に抗し続けきたシャーマンの姿勢が映し出されている。ジャケットについた性器のような形のシリコン製ボタンは、想像の人物に扮したり、ゆがめた肉体を表現したりしながら、つねに衝撃的なビジュアルを生んできたシャーマンへのトリビュートだ

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