才能と狂気、圧倒的な知識と批評眼をもつ、ファッション界の唯一無二の存在、カール・ラガーフェルド。作家のアンドリュー・オヘイガンがその素顔に迫る

BY ANDREW O'HAGAN, PORTRAIT BY JEAN-BAPTISTE MONDINO, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 その夜、トンデムン・デザイン・プラザにソウル中のファッショニスタたちが大集結した。川の水で洗われて丸くなった小石を巨大にしたような形の、灰色をしたこのプラザは、ザハ・ハディドのデザインによるもので、商業地区の禮智洞(イェジドン)にある(イェジドンには韓国語で「謙虚さを学ぶための地区」という意味がある)。

 ファッショニスタたちはシャネルのすべて、またはラガーフェルドのすべてに乾杯する思いを込めて集まった。ファッショニスタたちにとってシャネルとラガーフェルドはほぼ同じ意味をもつ。ロゴがすべてのファッショニスタたちは頭のてっぺんからつま先までシャネルに身を包み、シャネル以外のものはいっさい身につけない。ショーの陶酔感は、このショーを実現させたアイコンであり、スーパースターである彼がいなければ存在しないのだ。

 観客たちは色とりどりの丸椅子に座り、そこからじっと見つめている(丸椅子は本当にインスタレーションだった。まるで分子クラスターの中心部分のような形だ)。

 観客たちはショーの始まりをこれ以上ないほどの歓声で迎えた。彼らにとって名声とは、揮発し、天に帰っていくエーテル、しかも吸っても身体に害のないように特別に作られたエーテルを、思いっきり吸い込むことなのだろう。

 クリステン・スチュワートが室内に入ってくると、よくあることだが、空気がはっきり浮遊したのがわかった。シャネルの服に身を包んだ観客の女性たちが、行儀のよさをかなぐり捨てて、椅子の上に飛び上がって写真を撮った。

 ショーの終わりにラガーフェルドがランウェイに登場した。それは鮮やかな挑戦の姿に見えた。いまだ現役として働き、さらに彼の次のコレクションのことをもう頭の中で考えているのだ。

「古いドレスは、どれももうまったく見たくないんだ」
 ラガーフェルドはパリで私にこう言った。アマンダ・ハーレックが企画し、ドイツのボンで開催された彼のこれまでの作品を集めた展覧会のことを尋ねたときだった。

「展覧会には行かなかった。私は今デザインしようとしている作品のほうにずっと興味があるから。近頃のアート・ディレクターたちにはみな、20人ぐらいのスタッフがいて、彼らがスケッチを描いているわけだが、私は違う。全部自分でやっているんだ。ドイツの古い言い伝えで『過去には価値がない』というのがある。私はそんな言葉に支えられて、全部自分でやり遂げている」
「空想することはどのくらい重要ですか?」
「もし空想しなかったら、人生は悪夢じゃないか」と彼は言った。

 ソウルで見た女性たちは、私が若い頃ともに育った故郷の同世代の女の子たちのようだった。彼女たちは、それを手に入れることで、自分が都会の一員になったような気分に浸れる一本の口紅がとにかく欲しいのだ。

「高級品というものは、ごく少数の人間しか持っていないものだ」とカールは言う。「そして、ハンドバッグを買うということは、少しでもそれに近づいていくという夢をもつことだ。それが私たちの文化であり、私を含め、多くの人間がそれによって大金を儲けている」

 

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