才能と狂気、圧倒的な知識と批評眼をもつ、ファッション界の唯一無二の存在、カール・ラガーフェルド。作家のアンドリュー・オヘイガンがその素顔に迫る

BY ANDREW O'HAGAN, PORTRAIT BY JEAN-BAPTISTE MONDINO, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 若いデザイナーで誰が好きかと尋ねると、彼はひとりだけ名前を挙げた。「アレキサンダー・マックイーンのサラ・バートンだ」と彼は言う。「彼女は素晴らしい。彼女の今の作品が大好きだ。彼(マックイーン)は死と幻に取り憑かれていたし、全然私の趣味じゃなかった。だが、彼女の作品はすごくいい。彼女のドレスがあまりにも美しいので、最近、写真を撮ったばかりだ。写真をプリントに焼いてもらい、彼女に送ったよ。彼女は非凡な才能の持ち主だ。マックイーンは一緒にいて楽しい人間ではなかったし、身だしなみもひどかったが、彼女の仕事ぶりは安心して見ていられるよ。すごく詩的でとても美しい」

「憎しみというものは、何かを創造する人生において、役に立つのでしょうか?」
「状況がすべてうまくいきすぎていて、あまりにも素晴らしいことだらけ、というのは、実は非常によくないことなんだ」と彼は言った。
「安穏すぎるのはきわめて危険だ。つい眠りこけてしまうから。敵の存在を常に大切にしないと。味方である友人たちのことは心配しなくていい」

 私が帰りがけに立ち上がると、彼は彼の携帯に保存されている写真を見せてくれた。それはすべてシュペットを写したものだった。サファイア色の目をした美しい白猫だ。

「わが家では、私はいちばん大切な人間ではないんだ」と彼は言った。「私はシュペットのおかげで、少しましな人間になれたよ。自己中心的なところがちょっと減った。私は彼女に働いてほしくはないんだが、日本から彼女に仕事の話が入ってね。とんでもない成功を収めたよ。フランスのあるゴシップ新聞が読者にアンケートを取ったんだ。『一匹の猫がこれほど巨額の金額を稼ぎ出せるということに驚きましたか?』と。82%の読者が驚いたと答えた。そこで、私はその新聞の編集長宛てに手紙を書いたんだ。『御紙の読者の82%が嫉妬深い人々だと知って残念です』とね。そもそも私にどうしろと言うんだ? 彼女は猫界のガルボなんだから」

 ソウルのトンデムン・プラザでのショーのあとのパーティで、ラガーフェルドが部屋に入ってくると、割れるような拍手が自然にわき起こった。彼がダンスフロアの横にある椿の木まで歩いてくると、ひとりの韓国人の女の子がシャンパングラスを掲げ、ラガーフェルドのほうにグラスを向けた。「私、もう死にそう!」彼女は英語でそう言った。

「そしてカール・ラガーフェルドは決して死なない」と彼女の友人が続けた。彼は椿の木の陰でスタイルの王様のように佇み、彼を取り巻くすべての人々に投げキスを送った。歓声と鳴り響く音楽のなか、あちこちで白い花びらがダンスフロアの上にひらひらと舞い落ちていた。

 

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