才能と狂気、圧倒的な知識と批評眼をもつ、ファッション界の唯一無二の存在、カール・ラガーフェルド。作家のアンドリュー・オヘイガンがその素顔に迫る

BY ANDREW O'HAGAN, PORTRAIT BY JEAN-BAPTISTE MONDINO, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 1954年に国際羊毛事務局の賞を受賞して以降(ピエール・バルマンとユベール・ド・ジバンシィを含む審査団によりこの賞が決められた)、ラガーフェルドは自らの人生の選択を自らの采配で決めてきた。彼はファッションの学校で学んだことは一度もないが、早くからジャン・パトゥのクチュールメゾンのためにデザインしていた。だが、ラガーフェルドはクチュールによってその名を知られるようになったのではない。

 むしろ、ほかの誰にも真似のできない腕をもつデザイナーとして、つまり、すぐに着られる高級既製服のキングとして名を轟かせてきたのだ。それも、有名ファッション・ハウスが既製服を主戦場にするずっと前から。頭脳を自分で鍛え、威信を自ら作り出し、クロエで働いていた頃には彼の名はパリのファッション界ではすでに知られるようになっていた。彼は1970年代という時代の繊細さを全身で吸収し、自身のデザインに本質的な煌めきとポップ・アートのわかりやすさを吹き込んだ。時の文化を多弁に語る究極の存在として、ラガーフェルドは名声を築き上げる。常に興奮とスリルに満ちた状態に自分を置き、フリーランスとしての人格を忘れない。自身がデザイナーとして代表するブランドのラベルをはるかに超えて、彼自身という存在を力強く打ち出してきた。

 過去60年間にわたり、業績を積み重ねてきた今、彼はデザイナーというよりも、偉大な映画監督のように見える。彼は自分のスタジオを所有しようとしたことは一度もない。ただひたすら他人には真似できない、独自の卓越した個性をデザインに吹き込みたかったのだ。それが彼の仕事の中身だ。細部にわたり気を配る映画監督のような眼力をもち、彼が紡ぐ物語とミステリアスな魅力で、ほかのデザイナーとは別格の存在になった。82歳にして、優秀なファッションデザイナーが到達しうる最高峰の姿を私たちに見せてくれている。

「映画監督では誰が好きですか?」
「エリッヒ・フォン・シュトロハイムの作品が大好きだ。なかでもいちばん好きなのは『愚かなる妻』だ」
「好きな女優は?」
「マレーネ・デートリッヒとは彼女の晩年に知り合った」とラガーフェルドは言う。
「彼女をヘルムート・ニュートンに紹介したのは私だ。ニュートンは昔デートリッヒの写真でマスターベーションしていたんだと私に語ったよ」

 ラガーフェルドは無声映画のことをもっと話したがった。
「アンディ・ウォーホルと映画を撮ったポール・モリセイと以前話をしたんだが、彼は無声映画が大好きだと言っていた。でも彼はヨーロッパの無声映画については何も知らなかった。イタリアやスウェーデン、デンマークの作品も知らなかったんだ。私はグーグルのような頭脳を持っているってわけさ」
「あなたはウォーホルの映画、『ラムール』に出ていませんでしたか?」
「ああ、そうそう」と彼は言った。
「あれは映画史上、最も子どもじみた撮影現場だったな」
「女優についての話に戻りますけど、あなたは女優たちのことをいつも気にかけていますよね?」
「そうすべきだからね。私の仕事の上でも」

 

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