PHOTOGRAPHS BY MASANORI AKAO, STYLED BY MAKI OGURA, HAIR & MAKEUP BY KEITA IIJIMA(MOD’S HAIR), EDITED BY HIROKO NARUSE, TEXT BY MASANOBU MATSUMOTO
朝吹真理子(Mariko Asabuki)
作家
「家族が持つ大切なジュエリーを身につけるのも、いいものだなと思います。長い時間をかけて生まれてきた石を、祖母がつけ母がつけ、たまたま私が預かってつけている。人の命より物の命のほうが長い。そのことを感じる瞬間がジュエリーにはあります」
朝吹さんの最新作『TIMELESS』は、 恋愛感情なく結婚したうみとアミ、息子のアオ、そしてアミの両親を主人公にした現代家族の物語。3世代分の時間を過去や未来が今に混在しているような独特の時制で描く。それは古典に触れて育った朝吹さん独自の実感でもある。「昔から絵巻物に見られる“異時同図法(いじどうずほう)”が好きで、最も美しいと思うのが俵屋宗達の『蓮池水禽図(れんちすいきんず)』。宗達は蓮の花が泥の中から咲いて散るまでの4日間を一枚の絵の中に表しました。あるひとつの時間を切り取るのではなく、ひとつの空間に全体の時間が偏在している─そういう時間を小説で描きたかった」
小説は奇跡、とも話す。「最後まで完成するかわからないし、できたとしてもそれは偶然。次回作も、これまでと同じように自然に生まれていくのかなと思います」
朝吹真理子
1984年生まれ。2009年デビュー作『流跡』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、2011年『きことわ』で芥川賞を受賞。2018年、最新作『TIMELESS』を発表(すべて新潮社)
中村祥子(Shoko Nakamura)
バレエダンサー
ベルリン、そしてハンガリー国立バレエ団でプリンシパルに。世界の舞台に立ち続けてきた中村さんにとって、ジュエリーは武器だという。「もともと引っ込み思案。コンプレックスもあって表現することに躊躇もありました。それが変わったのが、初めてコンクールで赤いドレスとイヤリングを身につけたとき。以降、ジュエリーは“私は大丈夫!”と自信をくれるスイッチになっています」
一時期はトップであり続ける重圧に苦しんだが、今は「ケガや出産などの経験を経て、バレエはそもそも恐れて踊るものではないことに気がついた」と話す。「衣裳で着飾りアクセサリーをつける。あとは舞台を楽しんで、お客さまに感動していただけたら」。
2015年からは、日本で踊る機会を増やすべく熊川哲也率いるKバレエを活動の拠点に。12月は『くるみ割り人形』、来年1月から『ベートーヴェン第九』『アルルの女』と公演が続く。「『アルルの女』は初めての演目。この年齢で新しい挑戦ができるのもうれしい。また、年を重ねた今だからできる表現を多くの人に見ていただきたいです」
中村祥子
1980年生まれ。海外のバレエ団で活躍後、2015年よりKバレエカンパニーのプリンシパル。12月は『くるみ割り人形』、2019年1月~2月は『ベートーヴェン第九『』アルルの女』に出演予定
薄久保 香(Kaoru Usukubo)
画家
幻想的で、超現実的。シュルレアリスムを現代に再考する絵画作品で知られる薄久保さん。その作風はもちろん、制作プロセスも面白い。「近作は、ベルリンに住む少女と日本に暮らすフクロウがモデル。本来は出会う環境にないふたりが出会い、同じ時間を過ごす中で生まれた物語を題材にしています」。そこで起こる偶然性や関係性を利用して、われわれが普段見逃している現実の側面を、絵で表現したいのだと話す。
「宝石は、画家としても惹かれる存在です」とも語る。薄久保さんは自分の作品を"crystal moment"という言葉で言い表す。“結晶化された時間”の意味だ。
「絵筆を通じた身体活動の記録が、結晶化されて作品になっていく。そんな実感があります。一方で、たとえばダイヤモンドも、地球が何億年も時間をかけて活動した記録の結晶といえます。太古のものでありながら、ファッションとしてコンテンポラリーな魅力を放つ。その相反する要素が融合されたものとして、特別なロマンを感じるのです」
薄久保 香
1981年生まれ。国内外で絵画作品を発表。12月22日まで、東京・馬喰町のギャラリーtaïmatzにて個展を開催中
www.kaoru-usukubo.com
青木涼子(Ryoko Aoki)
能アーティスト
日本の伝統芸能である能と、西洋のクラシック音楽をルーツにもつ現代音楽。青木さんは、ふたつを融合した新しいパフォーミング・アーツに挑んできた。単なる前衛的な実験ではなく、ひとつの音楽作品として完成させることにこだわる。「過去、演劇ではピーター・ブルックなどの演出家が能に着想を得た作品を作ってきました。私は音楽からのアプローチ。世界各地の現代音楽の作曲家に、謡(うたい:能の歌唱法)の新しい楽曲制作を依頼し、私が演奏するというやり方です」
本来、能の謡には西洋音楽のような音程や拍という概念はない。音楽構造の違いを解消するため、青木さんは"作曲家のための謡の手引き"を自身で制作し公開した。今では楽曲も増え、来年はハンガリーの作曲家エトヴェシュ・ペーテルによる"能オペラ"を引っさげて世界を回る。「ソプラノ歌手のようには歌えません。ある意味、不自由な私の声をいかに歌わせるかに作曲家が挑んでくる。そのやりとりが面白く、またそこに私自身も、能の新しい魅力を感じています」
青木涼子
2014年、デビューアルバム『能×現代音楽』をリリース。国内外の音楽祭等でパフォーマンスを行なっている。2019年3月9日、日本・ハンガリー国交樹立150周年記念『くちづけ〜現代音楽と能』に出演。海外主要都市でも上演予定
http://ryokoaoki.net