身にまとうものには、その人の思いや考え、ときに主義や信条や、生きる時代の空気までも映し出されるもの。自他ともに認める稀代のモード愛好者、ファッションライター・栗山愛以が、自らの装いや物欲の奥にあるものを、ゆるゆると紐解き覗き込む

TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA

画像1: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.14 コスプレ用の眉マスカラ

 本連載は装いについて語ることになっていますが、「装い」とは手元にある国語辞典によれば「身に着ける服装、用具などを飾り整えること」で、自分自身を「飾り」そして「整える」のは服だけではない。髪型やメイクも重要な要素です。そこで今回は最近の私のヘアメイクをテーマにしてみたいと思います。

 ところで2月末、なんとなく伸ばしていた髪をばっさり切りました。それは、エリザベス2世の生涯を描いたNetflix のドラマ『ザ・クラウン』(2016〜23)のダイアナ妃役でブレイクした女優エマ・コリンの坊主ヘアがかわいかったから。ただ、彼女は昨年7月から実践していて、先月パリ・ファッション・ウィーク取材で本人を見かけたらやや伸びていてモヒカン風のヘアスタイルに変わっていた。私は彼女の姿をずーっと観察しながら半年くらい思い悩んでいたのでした。

画像2: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.14 コスプレ用の眉マスカラ

 なぜそんなに時間を要したのかといえば、坊主ヘアはフェミニン度がゼロであるからです。Vol.1で「1%でもフェミニンさを感じさせる、というのが信条です。“モテ”かどうかを念頭に置いているわけではなく、何らかの性に寄せすぎない方が魅力的な装いになると考えているからです」と宣言したように、他に媚びるような装いは避けたいものの、フェミニンさを完全放棄はしたくない。服でそれをやりがちな私が、ヘアもゼロにしてしまっていいものか。しかし、エマ・コリンは坊主頭でもミュウミュウをはじめとするガーリーなルックを着こなしていてフェミニンな感じがある。冷静に考えればかわいらしい顔立ちで、20代という若さが重要である気がしますが、そんなことは棚に上げてどんどん洗脳されていき、パリ出発前の勢いもあって「エマ・コリンみたいな髪型にしてください!」と美容師さんにお願いしていたのでした。

 いざ切ってみるとそんなに違和感はなかったのですが、なんだか別のところがおかしい気が。それは私の脱色した眉と長い爪でした。眉についてはこれまたモデルがいて、HBOのドラマ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』(2022〜)に出演していた女優エマ・ダーシーの黒髪にプラチナブロンドの眉の組み合わせがかっこよかったから。そこで「眉毛を痛めるよ、生えてこなくなるよ」という友人の心配をよそに脱色して「コスプレ・イベント用」の眉マスカラで色味をキープしていたのでした。爪についてはVol.12で紹介したブランド、マリーン・セルのショーを見たのがきっかけ。自分とは遠いところにいるギャルの専売特許だと思っていた長い爪を採用していて、これは新スタイル!と飛びつき、2019年からずっと続けています。

 さんざんいろんな髪型に挑戦したことや歳を重ねたせいもあって髪の毛が弱り、もう色は変えないと決めていたのでブリーチ眉は「平凡な」黒髪にパンチを与えてくれているような気がしていたのですが、エマ・コリンの坊主ヘアがかわいらしく見えるのは、ピュアな印象がするのも大事なポイントであるような。ブリーチ眉やロングネイルで凄みをきかせている場合ではない気がしてきたのです。

画像3: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.14 コスプレ用の眉マスカラ

 坊主ヘアにしたことで、一気にヘアメイクのバランスが崩れ落ち、ブロンド色の眉マスカラを手放そうか、ロングネイルをやめようか考えあぐねている今日この頃。しかし、このヘアが定着してきたら物足りなくなってきて再び手を出してしまうような。はたまた懲りずにまた新たな獲物(?!)を見つけてそのムードを実現しようといきなり方向転換するような予感もしているのでした。

栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama

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