BY MACKY MAKIMOTO, PHOTOGRAPHS BY SHIGERU OHTSUKI
最後は天ぷらを紹介したい。「前平」で驚いたのは、海老であった。ほかと変わらぬ巻き海老が、ひと口嚙んだ瞬間に爆ぜた。よそのように全身を伸ばすことなく、尻尾の際だけ伸ばしているという。それによって海老の筋が生きるため、嚙みしだく食感になる。結果としてよく嚙む。嚙むことによって海老の甘い風味は増大して、われわれを幸福にするのである。
このような新しい工夫が随所に見られる。ねぎの青々しい香りが小柱のやわらかい甘みを輝かせる芽ねぎ小柱。一筋縄ではいかない根菜の力強さを詰め込んだ紫人参。ペーストした枝豆団子に堅茹で枝豆を射込んだ、枝豆。添えた花山椒佃煮と食べさせる鱧。個体を丸ごといただく感がある、肝醬油につけて食べるアワビなど、ネタを生かす新たな食べ方と食材の組み合わせに、笑い、しびれる。天ぷらの未来がある。シンプルなよさを熟知しながらも、より素材の力を生かすにはどうしたらいいかを突き詰めた、正道がある。
そう、今回ご紹介した「新・江戸前」の仕事は、邪道ではない正道である。本来は鰻の産地違いを表した「江戸前」という言葉は、今では「江戸流の仕事」という意味も含む。
「新・江戸前」とは、伝統的な仕事に新たな技や工夫を加える。それは従来の仕事を踏襲しながら、もっとおいしくする方法はないかと日々考え、模索しつづけた賜物である。その姿勢こそが、連綿と続く「江戸前」の仕事であり、伝統を生かすことなのである。
てんぷら 前平
完全予約制。おまかせ¥18,000のみ
住所:東京都港区麻布十番2-8-16 ISIビル4F
営業時間:17:00~20:00(入店)
定休日:日曜・祝日
電話: 03(6435)1996
マッキー牧元
1955年東京都生まれ。焼きとり、トンカツ、居酒屋からフランス料理まで、美味を渉猟してやまない自称「タベアルキスト」。雑誌寄稿やラジオ、テレビ出演、講演会、料理開発と多忙な合間をぬい、料理人の"隠れたファインプレー"を発見することを無上の喜びとして、たゆまず食べ歩く日々