BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY YUKO UEHARA
近所で軽くお酒をというときの選択肢に、カレー屋が最近加わった。外でのフレンチやイタリアンが続いて身体が重いとき、居酒屋気分じゃないとき、スパイス料理で元気になりたいときに行く。
ここ数年、日本のインドカレー料理店の状況の変化には、著しいものがある。以前はインドカレーとひとくくりにされたが、いまはインドでも北か南か、はたまた周辺のスリランカか、と細分化される。1種類の料理だけを週替わりで出したり、お酒を多種類揃えて居酒屋風にしたり、味もスタイルも実に多様化しているのだ。
通っているのは、東京・西荻窪のガード下商店街にある「大岩食堂」。カウンターと大小ふたつのテーブルだけのコンパクトな店内に、カフェのようなゆったりした雰囲気が漂う。店主の大岩俊介さんはカレー好きが嵩じ、知り合いのスリランカ人の家に泊まり込んで現地の味を学び、八重洲の有名な南インド料理店「エリックサウス」に勤務。店長まで勤め上げ、3年前に自分のお店を開いた。
大岩食堂のカレーは南インドスタイルで、ホット&スパイシー。サラリとしているのが特徴。「ミールス」と呼ばれる南インドの定食を、昼も夜も出していて、このミールスを必ず頼む。「定番」と「日替わり」からカレーを2〜3種類チョイスすれば、豆と野菜のスープ「サンバル」と、酸味を効かせたもうひとつのスープ「ラッサム」、インディカ米の「バスマティライス」、豆の粉で作られたクラッカー状の「パパド」に、グリーンサラダがひと皿にのってくる。
「南インドの街の食堂では、バナナの葉が目の前のテーブルに敷かれ、ご飯と共にカレーが数種類盛られます。カレーは地域ごと、季節ごとに異なりますが、サンバルとラッサムはいつもついてきますね」と大岩さん。「南インドは赤道に近くて暑いので、辛くてスパイシーな料理が多いんです。米が育つ土地なので、添えられるのはご飯が多い。乳製品をほとんど使わず、油脂分が少なめですから、全体にあっさりしています。海に近い地域では魚介類をよく食べるし、ベジタリアンが多いので野菜料理の種類も豊富。南インドの料理は日本人の舌に合うと思います」
夜はおつまみ系も。まぐろなど魚介のスパイスオイル煮や、「ジーラチキン」と呼ばれるクミン風味のチキンのロースト、マサラ風味のフライドポテト、野菜のピクルスなどを、その日の気分のお酒と楽しめる。
お酒好きの大岩さんがセレクトしているドリンクリストは、インド料理店とは思えないほど充実している。ワインは自然派のみ。白ワインなら酸味が立ってミネラル感のあるもの、赤ならスパイシーで味のしっかりしているものがインド料理に合うのだとか。
「いままで飲んだレモンサワーの中でいちばんおいしい!」と友人が絶賛したのが、この店の「レモンサワー」。瀬戸内産無農薬レモンとコリアンダーシード、クローヴ、カルダモン、唐辛子、きび砂糖をドライジンに漬け込み、炭酸で割ったもの。この秋からは日本酒の燗も置くようになった。インド料理に燗酒!と驚くなかれ。燗をした日本酒のおかげでスパイスの香りがさらに際立って、えもいわれぬおいしさだ。
駅から2分。ガード下なので、雨の日も濡れずに行くことができる。ランチもおすすめだが、私はもっぱら夜、ミールスとおつまみ、日本酒を楽しみに通っている。
大岩食堂
住所:東京都杉並区西荻南3-24-1 西荻窪マイロード内
営業時間:ランチ11:00~15:00(LO 14:30)、ディナー18:00~23:00(LO 22:00)
定休日:月・木曜
※月曜日はランチのみ営業日あり。当月の営業カレンダーはtwitterかFacebookで確認を
電話: 03(6913)6641